トップオピニオン社説江藤農水相更迭 農政担う資格のない失言だ【社説】

江藤農水相更迭 農政担う資格のない失言だ【社説】

首相官邸に入る江藤拓農林水産相(中央)=21日午前、東京・永田町

米価高騰により国民が家計の痛みを感じている最中、江藤拓農林水産相が「(自分は)米を買ったことがない」などの失言をし、事実上更迭された。国民の痛みを肌身で分からない人物に農政を担う資格はない。価格抑制に指導力を発揮できるとも考えにくく、閣僚交代は当然だ。

遅過ぎる首相の対応

当初、続投を明言した石破茂首相の決断も遅過ぎ、猛省すべきである。首相は政権の命運を懸け、少しでも早く米価抑制を実現させるとともに、米の安定供給ができるための中長期的な食料安全保障政策を構築して実行に移し、国民の信頼を取り戻してもらいたい。

江藤氏は地方の会合で「支援者がたくさん(米を)下さる。売るほどある」とも発言した。本人は「ウケを狙って強めに言った」と釈明し、撤回したが、苦しむ国民感情を担当大臣自らが逆撫(な)でしたものだ。政治家としての資質にも大きな疑問符の付く言動である。

さらに問題なのは、石破首相の対応だ。発言から2日後の衆院本会議で「任命権者は私であり、深くお詫(わ)びする」と述べながら、江藤氏を守ろうとした。支持率の低い政権にとって、初の閣僚更迭となれば痛手になるのは間違いなく、それを避けたい思惑があったのだろう。

しかし、世論の批判の高まりを背景に、立憲民主、国民民主、日本維新の会など野党5党が農水相の更迭を求める方針で一致。翌日の党首討論の開始前までに具体的な動きがなければ農水相不信任決議案の提出を検討することも確認した。

更迭しなければ党首討論は政権への批判にあふれて防戦一方になり、支持率がさらに低下するのは明らか。少数与党であるため不信任案が出されれば成立が濃厚で、その後の国会運営に支障を来すことになる。つまり、石破首相には選択肢がなく、野党による「追い込まれ更迭」の形になったのである。

石破首相は後任に小泉進次郎元環境相を充てた。小泉氏は「国民が一番不安に、また、毎日の生活の中で日々感じている米の高騰に対してスピード感を持って対応していく」と述べ、消費者目線での改革を行うとの抱負を語った。その点は評価したい。早速、今月下旬に予定していた4回目の備蓄米の入札を中止する方針を示し、スーパーなど幅広い業種に直接売り渡す意向も明らかにした。

既得権益に大ナタを

ただ、「スーパー、小売りの現場から卸、生産者、集荷業者に至るまで、どこに、なぜ、どれくらいのものが滞留しているかを把握しなければならない」と石破首相が語るように、昨年夏頃から始まった米価高騰は、現時点でも詳細な実態をつかめていないのだ。これでは確実な価格低下を期待できない。早急に取り組まねばならない。

小泉氏は9年前の党農林部会長時代、農協改革に取り組んだ経験を持つ。当時、当選3回の若手で「改革の本丸は全農だ」と意気込んだが、農水族議員や農協の抵抗は激しく、仕上がった改革案は骨抜きとなった。今回は「組織や団体に忖度(そんたく)しない」という。既得権益に大ナタを振るえるのかも注目したい。

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