トップオピニオン社説トランプ氏外遊 中東安定化へ戦略を示せ【社説】

トランプ氏外遊 中東安定化へ戦略を示せ【社説】

13日、サウジアラビアの首都リヤドに到着したトランプ米大統領(左)を出迎えるムハンマド皇太子(中央)(AFP時事)

トランプ米大統領が就任後初の本格的外遊で中東のアラブ3カ国を歴訪し、巨額投資の約束を取り付けるなど成果を挙げた。一方で、中東安定への要、パレスチナ和平では方向性を示せず、不安の残る歴訪となった。

イスラエルに不満か

トランプ氏は、サウジアラビア、カタール、アラブ首長国連邦(UAE)を訪問。巨額の対米投資などで合意した。総額は2兆㌦(約290兆円)に上り、トランプ氏としては「米国を再び偉大に(MAGA)」をさらに一歩進めたと内外にアピールするには十分だろう。

一方、歴訪で世界を驚かせたのは、シリアのシャラア暫定大統領との会談だった。サウジの事実上の最高権力者ムハンマド皇太子が臨席し、トルコのエルドアン大統領は電話で参加。トランプ氏はシリアへの制裁解除の意向を表明した。

シリアでは昨年、反政府勢力の蜂起でアサド親子2代にわたった長期独裁政権が崩壊。今年に入って新生シリアのトップとしてシャラア氏が暫定大統領に就き、内戦で破壊されたシリアの復興に取り組んでいる。周辺アラブ諸国との関係修復にも取り組み、2月には初の外遊でサウジを訪問した。

ただ、米国の同盟国で「中東唯一の民主主義国」イスラエルは、シリア暫定政権を「テロリスト」と呼び、軍事攻撃を続けている。制裁解除が米イスラエル関係に影を落とすのは必至だ。

米国とイスラエルとの関係を巡ってはさらに、パレスチナ自治区ガザの紛争が不安材料として浮上している。イスラエルは3月、ガザへの本格的攻撃を再開。トランプ氏の中東歴訪最終日の16日には大規模攻撃開始を宣言した。ガザでは人道支援も滞り、非戦闘員の死傷者も多いため、人道問題として国際社会から強い非難を受けており、その矛先はイスラエルの「後ろ盾」の米国にも向きかねない。

トランプ氏は政権1期目の2020年にUAE、バーレーンとイスラエルの国交樹立を達成した。「アブラハム合意」だ。今回の歴訪でも、サウジなどに合意への参加を呼び掛けた。だがサウジは国交の条件として、パレスチナの独立を前提とする「2国家解決」を掲げ、今回の歴訪でもムハンマド氏は「ガザの戦争終結と、パレスチナ問題の包括的解決」の必要性を強調。ガザ攻撃が激化している今、合意への参加は望むべくもない。

長期的道筋示せず残念

その障害となっているのがイスラエルのネタニヤフ政権だ。かつて国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)への支援を停止するなど、露骨にイスラエル寄りの姿勢を取ってきたトランプ氏だが、ガザ情勢の悪化には不満を抱いているはずだ。歴訪からイスラエルを外したのは、米イスラエル間に隙間風が吹いている証左とみる専門家もいる。カタールの衛星テレビ局アルジャジーラは「米国はもはや、中東をイスラエルというレンズだけを通して見ているわけではないようだ」と指摘した。

さらにイランの核開発、イエメンの武装組織フーシ派の問題がのしかかる。歴訪で中東安定化へ長期的道筋を示せなかったことは残念というしかない。

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