中谷元防衛相がスリランカとインドを訪問し、それぞれ防衛協力の強化で一致した。
覇権主義的な動きを強める中国は、南アジアでも影響力を高めている。「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向け、日本は南アジアへの関与を深めていく必要がある。
対中傾斜のスリランカ
中谷氏はスリランカでジャヤセカラ国防副大臣と会談し、部隊間の連携強化で一致。中国を念頭に「力による一方的な現状変更の試みに重大な懸念がある」と述べた。
スリランカは、日本が中東から原油を輸入する際のシーレーン(海上交通路)に位置する。対中債務の返済が滞ったため、2017年には南部ハンバントータ港の99年間の運営権を中国国営企業に貸与した。中国がこの港を軍事基地化してインド洋で影響力を拡大すれば、航行の自由が脅かされる恐れがある。
中谷氏は当初、ディサナヤカ大統領兼国防相と会談する予定だったが、ジャヤセカラ氏に変更された。ディサナヤカ氏は中国寄りとされ、今年1月には中国の習近平国家主席との会談で、中国主導の巨大経済圏構想「一帯一路」などを通じた協力の強化を確認した。中谷氏の会談相手を代えたのも中国に配慮したものと考えられる。スリランカの対中傾斜を防ぐため、日本は今後も経済や安全保障での協力関係を深めるべきだ。
一方、中谷氏はインドでシン国防相と会談し、日印間で実施する共同訓練の拡大や深化で合意。日印がインド太平洋地域で防衛面の連携を強める重要性を強調し、そのための調整を担う両国の担当者による協議体新設で一致した。総人口で中国を追い抜き、世界1位となったインドとの防衛協力強化を地域の安定と繁栄につなげなければならない。
ただインドは、特定の国に偏らない外交を展開している。日米やオーストラリアとの4カ国の枠組み「クアッド」に参加すると同時に中国やロシアが主導する新興国グループ「BRICS」の加盟国でもある。
しかし中国はインド洋沿岸諸国で港湾インフラの建設を支援し、インドを包囲する「真珠の首飾り」戦略を進めている。このような港湾としてはハンバントータ港のほか、パキスタンのグワダル港やバングラデシュのチッタゴン港などを挙げることができる。
「自由で開かれたインド太平洋」を提唱した安倍晋三元首相は、この地域を「力や威圧と無縁で、自由と法の支配、市場経済を重んじる場として育てる」と述べた。こうした民主的価値観を浸透させ、中国の海洋進出に対抗する上でも、インドやスリランカとの関係強化に向けた外交が求められよう。
戦闘回避へ外交努力を
インドは、4月下旬にパキスタンとの係争地カシミール地方のインド側支配地域で発生したテロへの報復としてパキスタン領内を攻撃し、多数の死傷者が出ている。
両国とも核保有国であり、本格的な戦闘に突入すれば地域の不安定化は避けられない。日本は戦闘回避に向け外交努力を尽くすべきだ。