トップオピニオン社説泊原発「合格」 電力の供給体制を強化せよ【社説】

泊原発「合格」 電力の供給体制を強化せよ【社説】

北海道電力泊原発(泊村)=2024年3月、北海道岩内町から撮影

原子力規制委員会が北海道電力泊原発3号機(北海道泊村)について、再稼働の前提となる新規制基準に「適合している」とした審査書案を了承した。

「事実上の合格」で、一般からの意見募集などを経て今夏にも正式決定される見通しだ。電力の供給体制強化につなげる必要がある。

12年近くに及んだ審査

北海道電は2013年7月の新規制基準施行初日に審査を申請した。しかし地震や津波対策に関する説明などに時間がかかり、審査は12年近くに及んだ。地震対策について規制委は15年、北海道電が示した基準地震動に対し「おおむね妥当」との評価を示したが、その後に泊原発周辺の地盤が過去の地震で隆起した可能性があることが判明。説明のやり直しを求めた。また北海道電が活断層ではないとしていた敷地内の断層に関し、主張を裏付ける根拠が乏しいことが分かり、追加の掘削調査を余儀なくされた。

想定される津波の最大の高さは、申請当初の7・3㍍から修正を繰り返し、最終的に17・8㍍に変更。14年に盛り土を地盤とする防潮堤(高さ16・5㍍)を完成させたものの、液状化しない根拠を求められると、異なる構造の防潮堤新設へと方針転換した。北海道電の当初想定の甘さが審査の長期化を招いたことは否めない。

ただ、泊原発の再稼働の遅れは地元に悪影響を及ぼした。18年9月の北海道地震では、北海道電苫東厚真火力発電所が停止したことで電力の需給バランスが崩れ、道内全域が停電する事態となった。この時、泊原発が稼働していれば国内初の大規模停電(ブラックアウト)は回避できたとも指摘されている。規制委は電力の安定供給に向け、審査をできる限りスムーズに進めることが課題だと言えよう。

政府は23年2月、原子力を脱炭素効果の高い電源として「最大限活用」する方針を明記した「GX(グリーントランスフォーメーション)実現に向けた基本方針」を閣議決定。原発の「60年超」運転容認や建て替え推進などを盛り込んだ。

23年5月には「60年超」運転を事実上可能にする「GX脱炭素電源法」が成立。今年2月に閣議決定した「エネルギー基本計画」では原発について、過去の計画に記載してきた「可能な限り依存度を低減する」との文言を消した。一連の動きは、東京電力福島第1原発事故後の原発政策を転換するものだ。規制委は独立性の高い「三条委員会」だが、政府の政策転換を踏まえ、審査で慎重過ぎる面があるとすれば改める必要がある。

司法は専門的判断尊重を

泊原発を巡っては、道内外の住民ら約1200人が起こした訴訟で札幌地裁が22年5月に「津波に対する安全性の基準を満たしていない」として運転差し止めを命令。控訴審での審理が続いている。最高裁は1992年10月に下した伊方原発訴訟の判決で、原子炉の安全性審査には専門技術的な総合的判断を要することなどから、裁判所が判断を下すことは不適切とした。控訴審では今回の規制委の判断を尊重し、泊原発の再稼働を認めるべきだ。

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