と握手する石破茂首相=28日、ハノイ(EPA時事)-1024x612.jpg)
石破茂首相がベトナムとフィリピンを訪問した。覇権主義的行動を繰り返す中国を念頭に、両国との外交・安全保障関係を深めるのが狙いであった。
関心低いトランプ政権
ベトナムではファム・ミン・チン首相と会談し、安保・経済分野での連携強化を確認した。外務・防衛当局の次官級協議(2プラス2)を創設し、年内に日本で初会合を開くことで一致。安保協力の一環として、日本が装備品などを無償供与する「政府安全保障能力強化支援(OSA)」のベトナムへの積極活用も申し合わせた。
また安保、経済、文化など幅広い分野の交流・協力を盛り込んだ共同文書を発表。さらにトランプ米政権の高関税措置を踏まえ、自由貿易体制の重要性も確認した。
対中警戒心の強いベトナムだが、中国はベトナムにとって最大の貿易相手国でもある。またトランプ政権から46%の高関税をかけられたベトナムに対し、中国は反米での共闘を呼び掛けている。今回の訪問は日越関係を強化し、ベトナムが中国に接近し過ぎないよう繋(つな)ぎ止める狙いもあった。
次いで石破首相はフィリピンを訪れた。2023年11月には当時の岸田文雄首相が訪問。石破政権下でも今年1月に岩屋毅外相、2月には中谷元防衛相が訪れるなど南シナ海で中比関係が悪化する中、日比両国の接近が続いている。それに伴い、シーレーン(海上交通路)の要衝に位置するフィリピンに対し、日本は大型巡視船の供与やOSAなどで協力してきた。
今回の石破首相とマルコス大統領との会談では、中国の軍事活動を念頭に、軍事情報の共有を円滑にするための軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の早期締結の方針を確認したほか、自衛隊と比軍の間で物資を融通し合う物品役務相互提供協定(ACSA)締結に向けた交渉開始でも合意した。
首相は会談後の共同記者発表で「今や日本とフィリピンは同盟に近いパートナーになった」と述べ、マルコス氏も日比関係を「真の黄金時代」と評した。
トランプ政権の東南アジアへの関心の低さが懸念される中、首相は1月にマレーシア、インドネシアを歴訪した。それに続きベトナム、フィリピンを外遊先とすることで、東南アジア諸国連合(ASEAN)を重視する日本の姿勢を内外に強調する狙いが政府にあった。
新たな安保枠組み整備を
その上で中国の習近平国家主席が東南アジア3カ国を訪問した直後、首相が南シナ海で中国と領有権問題を抱える越比両国を訪れ、外交・安保分野での関係を強化することで中国を牽制(けんせい)するとともに、自由で開かれた海洋秩序を守り抜く意思を示すものともなった。米国を補う形で日本が強いイニシアチブを発揮しての今回の首相歴訪は成功を収めたと言えよう。
中国の膨張を阻むには、日米豪印や日米韓の枠組みに加え、日本がASEAN海洋諸国との連携を強化し、日比越、日米比越、さらにシンガポールやインドネシアなども視野に収めた新たな安保の枠組み整備に取り組んでいく必要がある。