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カトリック教会の最高指導者、フランシスコ・ローマ教皇が逝去した。
米国とキューバの歴史的な国交回復の仲介など融和への姿勢を貫いた教皇は、混迷する世界に対し宗教的価値観に基づく確固とした指針を示し続けた。
他宗教との対話に尽力
2013年に退位したベネディクト16世の後を継いだ時、バチカン(ローマ教皇庁)は機密文書漏洩(ろうえい)事件、マネーロンダリング(資金洗浄)疑惑などで信頼を失っていた。アルゼンチン出身のフランシスコ教皇は初めて中南米から選出された教皇、しかも庶民階級出身ということで注目と期待が集まった。その期待に応え、慈愛に満ちた発言と行動、そして庶民的人柄でカトリック信者だけでなく世界の人々の支持と共感を得た。
聖職者による未成年者への性的虐待はカトリック教会に刺さった深刻な棘(とげ)であった。就任以前からの問題だったが、就任後も過去の事例が次々と明らかにされた。これに対し「聖職者が子供たちを(性的に)虐待するのはひどい。例えるならば悪魔のミサだ」と厳しく批判し、断固とした姿勢を示した。
和解と融和を優先し、半世紀にわたる断交が続いていた米国とキューバの国交の回復を仲介した。他宗教との対話にも力を入れ、19年には歴代教皇で初めてイスラム教発祥の地であるアラビア半島を訪れた。
ロシアがウクライナに侵攻した22年には「ウクライナで血と涙の川が流れている。これは単なる軍事作戦ではない。死と破壊、不幸の種をまく戦争だ」と平和を訴えた。翌年には両国へ特使を派遣した。世界で戦争と暴力が日常化しつつある中、変わらない平和と慈愛のメッセージを世界に送り続けてきた教皇の存在は大きいものがあった。
24年にはローマ教皇として初めて先進7カ国首脳会議(G7サミット)に出席。人工知能(AI)について「より良いあすを築く道具となるには、倫理的なインスピレーションが必要だ」と強調した。19年には日本訪問を果たし、東京ドームで約5万人を集めてミサが執り行われたほか、天皇陛下、安倍晋三首相(当時)と会見。被爆地長崎と広島を訪れ、「核なき世界の実現は可能であり必要不可欠」だと核兵器廃絶を訴えた。
バチカンと断交していた中国との和解にも取り組み、18年には台湾との外交関係を維持しながら中国と司教任命権を巡る暫定合意締結に踏み切った。暫定合意は非公開のままだが、司教任命に際して双方の役割を認める内容とされる。
課題残した中国との協定
中国には推計1200万人のカトリック教徒がおり、教皇は現実的な打開の道を選択した。日本や中国などアジア伝道に力を注いできたイエズス会の出身であることも、中国の現状に一定の風穴を開けることにつながったとみられる。
しかし、キリスト教やチベット仏教など宗教への締め付けを強める中国によって暫定協定が悪用される懸念は大きい。国内のカトリック信者を人質に取った中国の宗教弾圧問題は、フランシスコ教皇が次の教皇に残した最大の課題の一つとなった。