
乗客106人と運転士が死亡し、562人が重軽傷を負ったJR福知山線脱線事故から20年が経過した。
事故を起こしたJR西日本をはじめとする公共交通機関は、この悲惨な事故を決して風化させることなく、常に安全最優先の原点に立ち返ることが求められる。
懲罰的管理が「誘発」
2005年4月25日、兵庫県尼崎市のJR福知山線塚口-尼崎間で、7両編成の快速電車が制限速度を大幅に超過したままカーブに進入し、線路脇のマンションに衝突。国鉄民営化後最悪の事故となった。
事故の背景には「日勤教育」と呼ばれるJR西の懲罰的な運転士管理方法があった。日勤教育は、オーバーランなどのミスがあった場合、運転士を乗務から外して草むしりやトイレ掃除をさせたり、反省文を繰り返し書かせたりする制度だ。
事故で死亡した運転士は、直前に伊丹駅で約72㍍オーバーランしていた。車掌と指令員の交信に気を取られ、ミスの言い訳を考えていたことから注意が散漫になって制限速度時速70㌔のカーブに116㌔で進入し脱線したとみられている。国の航空・鉄道事故調査委員会(当時)が07年6月にまとめた最終報告書は、日勤教育や懲戒処分が「逆に事故を誘発する恐れがある」と強く批判した。
事故で強制起訴された歴代3社長の公判では、指定弁護士が事故現場のカーブに「自動列車停止装置(ATS)の設置を指示すべきだった」と主張。しかし一審神戸地裁、二審大阪高裁とも「事故は予見できなかった」と判断し、17年に最高裁で無罪が確定した。
とはいえ、私鉄との競争を背景に福知山線の大幅なスピードアップを図る中、安全が軽視されていたことは確かだ。安全設備への投資は後回しにされ、運転士は余裕のない非現実的なダイヤで運行することを強いられていた。JR西はもちろん公共交通機関の関係者は、乗客の安全が最優先であることを改めて肝に銘じる必要がある。
ただJR西は、福知山線の事故後も安全に関わるトラブルを起こしている。17年12月に新幹線「のぞみ34号」の台車に亀裂が見つかった問題では、乗務員らが異臭や異音に気付いたものの、乗客約1000人を乗せて名古屋駅まで約3時間にわたり運行が続けられた。
悲惨さ忘れず教訓伝えよ
亀裂は破断寸前で、国の運輸安全委員会が新幹線初の重大インシデントに認定した。運輸安全委は19年3月に公表した報告書で、運行していたJR西側で重大事にはならないと無意識に思い込む心理的作用が影響し、早期把握できなかった可能性を指摘している。JR西は安全意識の向上を徹底すべきだ。
福知山線の事故から20年が経過した現在、JR西では事故後に入社した社員が7割に上っている。事故の教訓をいかに伝えていくかが課題だと言えよう。
全社員が定期的に研修を受ける施設「鉄道安全考動館」(大阪府吹田市)には、事故現場を正確に再現した巨大ジオラマ模型がある。事故の悲惨さを忘れることがあってはならない。