体のさまざまな細胞に変えられる人工多能性幹細胞(iPS細胞)から作製した神経細胞をパーキンソン病患者に移植する京都大付属病院などの臨床試験(治験)で6人中4人の症状が改善した。iPS細胞を用いた再生医療の実用化に着実につなげたい。
パーキンソン病が改善
パーキンソン病は脳内の神経伝達物質「ドーパミン」を生み出す神経細胞が減少し、手足が震えたり、動作が緩慢になったりするなど運動機能に障害が生じる病気だ。患者は国内に約29万人いるとされ、薬による対症療法はあるが、根本的な治療法は開発されていない。
京大病院などは2018~23年、50~69歳の患者計7人に、iPS細胞由来のドーパミン神経細胞500万~1000万個を脳の中央部に移植。経過を2年間観察した結果、7人とも重篤な副作用は見られなかった。
有効性を検証した6人では、いずれも移植後にドーパミン神経の活動が活発化し、脳内のドーパミン量が増加。うち4人で運動機能の改善が見られた。若く症状が軽い患者の方が改善効果が大きい傾向があるという。
神経細胞を供給した大阪市の製薬会社は、一定の条件や期限を定めた再生医療製品の承認を申請する予定で、早ければ今年度中の承認を目指している。多くの患者が恩恵を受けることが願われる。
他の病気に関しても、iPS細胞による再生医療の研究が進んでいる。今月には東京都のベンチャー企業が、iPS細胞から作った心筋細胞を用いた「心筋シート」の製造販売承認を申請したと発表した。
京大病院は、iPS細胞から作製した膵臓(すいぞう)の細胞シートを1型糖尿病患者に移植する治験を開始し、40代女性患者に1例目の移植手術を実施したという。移植後は5年間、血糖値やインスリンの量を測定し、30年代の実用化を目指すとしている。女性患者は今年2月、インスリンを分泌する複数のシートを移植する手術を受け、1カ月間の経過観察で安全性に問題がないことが確認された。
また3月には、慶応大がiPS細胞由来の神経のもとになる細胞を脊髄損傷患者4人に移植する世界初の治験を終了したと発表した。4人とも重篤な有害事象は発生せず、一定の安全性と有効性が確認されたという。今月開幕した大阪・関西万博では、直径約3・5㌢の「iPS心臓」が展示されている。iPS細胞への期待は大きい。
ただ今回のパーキンソン病の治験は症例数が少なく、改善度合いにもばらつきがあった。京大病院などは今後、移植する細胞数を増やし、治療法の最適化を図るとしている。
他の病気も含め、治療法を確立する上で最も重要なのは安全性だ。どの治験でも安全性が認められたことは大きな成果だが、確実なものとするには、さらに研究を重ねる必要がある。
「日本の宝」で貢献を
山中伸弥京大教授が開発したiPS細胞は「日本の宝」だと言っていい。
この技術を実用化し、国内外の再生医療に貢献することが求められる。