トップオピニオン社説日米関税交渉 経済、安保両面にらむ戦略を【社説】

日米関税交渉 経済、安保両面にらむ戦略を【社説】

トランプ米大統領(右)と会談した赤沢亮正経済再生担当相(内閣官房のSNSより)

日米両政府は、米政権の関税措置について閣僚級の交渉をワシントンで行った。日本側は赤沢亮正経済再生担当相、米側はベセント財務長官とラトニック商務長官、通商代表部(USTR)のグリア代表が出席した。

トランプ氏が急遽会談

交渉に先立ち、予定にはなかったがトランプ大統領が赤沢氏と会談。トランプ氏は在日米軍駐留経費の日本側負担や日本での米国製自動車の販売数の不足に不満を示し、また貿易赤字の解消を求め、対日交渉を最優先で進める意向を示したという。閣僚級交渉に大統領が加わるのは異例で、トランプ氏の対日交渉に懸ける強い思いが窺(うかが)える。

続く閣僚交渉で赤沢氏は、米政権による一連の関税措置は「極めて遺憾だ」と伝え見直しを求めたが、米側から関税取り下げの確約は得られず、継続協議となった。両政府は今月中に次回の閣僚会合を調整し、事務レベルでも協議を進めることで一致した。初回の交渉は成功と評価する向きもあるが、協議は緒に就いたばかりだ。

トランプ政権はドル高への懸念を表明している。今回の交渉で為替については議論が出なかったが、米側の姿勢が変化したわけではない。米側はドル高是正を目指した1985年の「プラザ合意」の再来を狙っているとの見方もある。高関税自体は真の目的ではなく、圧力を相手国に加え、ドル安誘導による貿易赤字解消や米製品の価格競争力向上を考えているのではないかとの捉え方だ。米側が今後、円安是正を強く迫ってくることは十分に考えられる。日本側は為替問題の対応策も十分に練っておく必要がある。

またこの交渉は、安全保障政策とも密接に絡み合うものとなろう。今秋には在日米軍駐留経費の改定交渉も本格化する。トランプ氏はこれまで「米国は日本を守るが日本は米国を守らない」と日米安保体制に幾度も不満を示し、またコルビー国防次官(政策担当)は日本は防衛費の対国内総生産(GDP)比を3%に高めるべきだと発言するなど圧力を加えている。

米側が経済と防衛の問題を抱き合わせる形で日本に譲歩を迫ってくることは間違いない。それに対応するには石破茂首相の強い指導力の下、関係各省が緊密な連携や調整を重ね、内閣一体となって経済と安保の全体を見通した総合的な交渉戦略を打ち立てる必要がある。

もっとも、米側も決して一枚岩ではない。日本の交渉相手はベセント氏だが、自動車関税などはラトニック氏の所管だ。それぞれの立場や考え方には開きがある。政権内部で意思の統一が図られた様子もない。結局のところ、重要かつ最終的な判断はトランプ氏の意向如何(いかん)で決まることになろう。

首相はリーダーシップを

そのため、トランプ氏に直接働き掛け、日本の立場に理解を求めることが何よりも重要だ。その役目を果たせるのは官僚や閣僚ではなく石破首相だけである。ここでも問われるのは首相のリーダーシップだ。首相は米政権の高関税政策を「日本の国難」と呼んだが、国難を克服できるか否かは首相自身の力量に懸かっている。

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