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巨額の貿易赤字を縮小させ、国内製造業の復活を目指すトランプ米大統領の関税政策。その国・地域別の相互関税の上乗せ分は、発効から24時間も経(た)たず、対中国を除外して90日間の休止措置が取られた。
相互関税の発表後、米国の株式、国債、ドルは「トリプル安」に見舞われた。特に国債の下落、つまり債券市場の危機管理が休止措置の主な要因とされている。
中国による売却リスク
日本は米国を除けば米国債の最大保有国であり、その安定運用へのコミットメントは、関税を巡るトランプ氏との交渉における重要なカードとなる。
米財務省の対米証券投資統計によると、日本の米国債保有額は直近データの今年1月現在で1兆790億㌦(約156兆円)となっており、2位中国の7608億㌦(約110兆円)を引き離す。
その中国だが、90日の休止措置において世界で唯一、適用が除外された。これは、米国の相互関税導入に対して強い報復姿勢を崩さなかったためである。また、トランプ氏主導の貿易政策が、結局のところ対中政策であることも示唆している。
中国の報復に対して米国は再報復で応じ、現状では米国の対中関税が145%、中国の対米関税が125%となっている。深まる対立の中、中国はこれ以上、税率増による報復は行わないと表明した。一方、中国が債券市場での米国債売却を手段として対米報復を行う可能性も指摘されている。
米株式市場がリスクセンチメントから大幅に下落する際、通常は安全資産としての米国債に資金が集まり、買われる。しかし、今回の米国による相互関税導入と中国との報復合戦では、当初こそ通常の反応が見られたものの、その後は米国債の売却基調が明確になっている。
ドル円相場も米10年債利回りを基準に通常は連動する。日米長期債の利回りの差を背景に、近年の為替相場では円安ドル高が鮮明だった。だが、直近ではこれらが逆相関を示している。つまりドルが下落する中、米国債利回りは上昇しているのだ。
米国債の金利安定やインフレの鎮静化に伴う下落は、トランプ氏が描いた構想である。ヘッジファンドマネージャー出身で、伝説的な投資家として知られるベッセント財務長官を指名した大きな理由でもある。これに反して米国債の金利が上昇すれば、政府の資金調達や米国民の住宅ローンなどに負担リスクをもたらす。
「経済的な同盟国」として
石破茂首相とトランプ氏との相互関税に関する電話会談を受け、交渉役に指名された赤沢亮正経済再生担当相が訪米し、ベッセント氏らとの実務協議が始まる。
債券市場における米国債の扱いは、中国による報復の道具にもなり得る。また、米関税政策の行方にも影響を与え得るものだ。ベッセント氏が「中国との連携を目指す動きは裏目に出る可能性がある」と述べたことに留意しながら、日本政府は大量に保有する米国債の安定的な運用を前提に「経済的な同盟国」として交渉に臨むべきだ。