令和7年度予算がかろうじて年度内に成立し、後半国会に移った。年金改革、政治とカネ、選択的夫婦別姓制度などを巡り論戦が交わされる。
米国発の緊急事態も
他方、トランプ米大統領による相互関税の一方的な発表は、日本だけでなく世界中に衝撃を与えている。国難と言える緊急事態である。わが国の経済だけでなく外交・安保政策に悪影響を与えず日米同盟の信頼関係を毀損(きそん)しないためにも、総合的な対米戦略策定の議論を早急に深めねばならない。
予算成立を受けて行われた1日の記者会見で、石破茂首相は「党派を超えた政策協議や国会での審議の内容も取り入れた。熟議の国会の成果だ」と語った。少数与党であるため財源を軽視した野党の政策要求に耳を傾けるなどし、ニ度にわたる修正で成立した。
方針が二転三転した高額療養費制度への対応では、石破首相が自己負担額の上限引き上げの全面凍結を表明したのは予算案が参院に送付されてから。修正案は参院で可決後、衆院で可決して成立した。参院で予算案が修正され、衆院の同意を得て成立するのは現憲法下では初だ。
政府は年金制度改革関連法案の作成で自民党との調整が難しく、提出期限の3月14日を過ぎてもまとめることができなかった。年金制度は国民の大きな関心事であり、与野党は同法案を本会議や委員会の質疑に首相が出席する重要広範議案に指定した。中小企業の保険料負担増を伴う内容などが含まれるため、自民内では夏の参院選への悪影響を懸念し反対の声が強い。肝要なのは、国民の視点に立った議論である。
企業・団体献金のルール見直しについても、3月末までにまとめるはずだった。立憲民主党や日本維新の会などは企業・団体献金が「金権腐敗の温床になっている」として禁止法案を提出した。しかし、労働組合などがつくった政治団体からの献金は禁止の対象外にするなど、抜け道法案だ。
自民、公明、国民民主3党は上限額に相違はあるが、企業・団体献金を存続し政治資金収支報告書をオンラインで提出する方針で合意した。今回の見直しは、自民派閥の政治資金パーティーを巡る事件が発端であり、資金の透明性向上と情報公開の徹底がポイントのはずだ。議員個人の順法意識をいかに高めるかの視点も忘れてはならない。
訪米して直談判せよ
懸念されるのは、立民などが導入を訴える選択的夫婦別姓制度の議論の行方だ。導入すれば子供の気持ちを考えず親子が別姓になる可能性があり、家族の一体感を損ない社会基盤が弱体化する。公明党まで「与党が一つの案をまとめて閣法として出すべき性格の法律だ」としているが、社会の根幹に関わる問題を敢(あ)えて取り上げて家庭の崩壊を招く愚を犯すべきではない。
何よりも優先すべきは、トランプ政権が突き付けてきた相互関税への対処だ。欧州では同盟国の対米不信が増幅している。石破首相にはトランプ氏と電話会談で済ますのでなく、訪米して国家の命運を懸け直談判する覚悟と指導力を求めたい。