トップオピニオン社説尹大統領罷免 与党は候補選定に集中を【社説】

尹大統領罷免 与党は候補選定に集中を【社説】

尹錫悦大統領=2月13日(AFP時事)

韓国の尹錫悦大統領に対する弾劾審判で韓国憲法裁判所は、判事8人の全員一致で罷免を決定した。非常戒厳の宣言要件である「国家非常事態」は発生しておらず、戒厳宣言は正当化できないとし、また、法で定められた手続きにも反していたとして「国民の信任を裏切り、憲法守護の観点から容認できない重大な違法行為だ」と断じた。

国内の対立、分断深まる

尹氏は戒厳を発令した理由として、国会で多数を占める野党「共に民主党」などの妨害を挙げていた。野党は治安や安全保障の予算に関わる重要法案の通過を妨げたり、野党指導者への捜査、訴追の動きには、次々に閣僚や検事、判事らを弾劾にかけたりしてきた。

だが、戒厳発令は保守メディアですら「憲政の破壊」だと非難する悪手だった。尹氏は憲法裁での最終弁論で戒厳発令を野党の非道を訴える「対国民アピール用」と主張したが、ろうそくに着火するのに火炎放射器を使ったようなもので、戒厳に韓国民が抱く反発心を考慮すれば、取ってはならない手段だった。

韓国で大統領が弾劾で罷免されるのは朴槿恵氏以来2人目。朴氏の時には国会も与野党そろって弾劾に賛成したのに対して、今回の弾劾では与野党が激しく対立した。国論も賛成する左派と反対する保守派に二分し、大規模なデモや集会が繰り返された。双方の対立、分断は深まり「修復は困難」と現地メディアが伝えるほどだ。

尹氏は対国民談話で「期待に応えられなかったことは大変申し訳なく遺憾」と伝えた。まだ内乱罪での裁判を抱えてはいるものの、尹氏はここで矛を置いて、これ以上、保守派の市民たちを消耗的な前線に立たせておくべきではないだろう。

与党も大統領選に舵(かじ)を切り替え、候補選定に集中しなければならない。世論調査で大統領にふさわしい人物を問えば、常に共に民主党の李在明代表がトップに来る。与党では数人の候補者が挙がりはしても、李氏に対抗し得る人物は現れていない。

しかも、尹氏罷免で先に公職選挙法違反の控訴審で無罪となった李氏の勢いが増している。李氏を支えるのは「日韓国交回復後最悪の関係」をつくった文在寅政権系統の勢力だ。現在の状況が続けば、李氏が大統領の椅子を射止める可能性が高い。他にも複数の裁判を抱えているとはいえ、遅延行為で裁判を長引かせ、判決前に大統領選で決着をつけることも予想される。

今年は日韓国交正常化60周年を迎える。既に両国では「両手を携え、より良い未来へ」のキャッチフレーズを冠したロゴマークを用意し、年間を通した記念行事が進行中だ。6月に大統領選が行われ、政府間の行事があるとすれば、新大統領の最初の外交舞台になるかもしれない。

あらゆる局面に備えよ

尹政権になって劇的に対日関係改善を行い、外交、通商、防衛などの当局者会議も再開された。23年には米キャンプデービッドで日米韓3カ国の協力関係を再確認もした。新大統領が今の外交基調を継承するのか、再び歴史問題を蒸し返してくるのか。日本政府はあらゆる局面に備えておかねばならない。

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