トップオピニオン社説日本とブラジル 戦略連携で中国に対処せよ【社説】

日本とブラジル 戦略連携で中国に対処せよ【社説】

ルラ大統領(左)と握手する石破茂首相=26日午後、東京・元赤坂の迎賓館(代表撮影)

石破茂首相は、国賓として訪日したブラジルのルラ大統領と会談した。今年は日本とブラジルの外交関係樹立130周年の節目に当たる。

首脳の相互訪問で合意

会談では、首脳同士が隔年で相互に相手国を訪問することや、安全保障分野の協力などを協議する「外相戦略対話」と外務・防衛当局の事務レベル対話の枠組み創設で合意し、「戦略的グローバル・パートナー」として両国関係を一層強化していくことで意見が一致した。

ウクライナや中東、東アジアの情勢を巡っても意見が交わされ、石破首相は力や威圧による一方的な現状変更の試みを容認できないとの考えを述べた。両首脳は国連安全保障理事会改革の具体的進展に向けて、両国にドイツ、インドを加えた4カ国(G4)で引き続き連携していくことも確認した。

経済分野では、両国の貿易や投資の関係を一層強化するとした上で、トランプ米政権による関税措置を念頭にWTO(世界貿易機関)を中核とする国際貿易体制の重要性を確かめた。環境問題で石破首相はアマゾンの違法森林伐採への対策などで協力していく旨を述べ、両首脳は脱炭素化で両国が世界をリードすることを確認。そして、会談の成果を盛り込んだ今後5年間の両国のアクションプラン(行動計画)を策定した。

ブラジルは日本人移民を受け入れてきた国で、今も270万人の日系人社会を抱えるなどわが国と繋(つな)がりが深い国だ。だが、ルラ氏を国賓として厚遇した理由はそれだけではない。ブラジルは、近年発言力を増しているグローバルサウス(新興・途上国)の代表格である。ブラジルと関係を深めることで、国際政治のキャスチングボートを握りつつあるグローバルサウスとのパイプを太くし、外交関係を強化したい思いがある。

またブラジルは中露両国が主導する新興国枠組み「BRICS」のメンバーでもあり、近年は中国との接近が進んでいる。中国は米国の排除を目指し、パナマ運河周辺の港の運営権取得や左派政権支援など中南米全域への影響力拡大に動いている。

日本は今回の行動計画策定などを通じてブラジルと協働するとともに、安全保障分野の対話強化に乗り出し、インド太平洋地域での脅威への対処や法の支配の重要性など国際認識を共有することでブラジルの中露への傾斜を防ぎ、併せて中国の中南米進出を牽制(けんせい)すべきだ。

自主外交のためにも重要

米一国主義を強めるトランプ政権は、欧州の安全保障を欧州自身に委ねる動きを強めている。インド太平洋でもこれまで平和と安定のために果たしてきた役割を見直し、コミットメントを縮小させる恐れがある。

そうした厳しい状況の中、日本は東南アジア諸国連合(ASEAN)やオーストラリア、南太平洋島嶼(とうしょ)国に留(とど)まらず、太平洋に面する中南米諸国とも関係を強め、多角的かつ戦略的な外交の枠組みを構築することで、自由貿易体制の維持や安全保障の確保に動く必要がある。そのような自主外交推進の観点からも、ブラジルとの関係強化は極めて重要な取り組みである。

spot_img

人気記事

新着記事

TOP記事(全期間)

Google Translate »