民主国家、日本の基礎である信教の自由が風前の灯となっている。東京地裁は世界平和統一家庭連合(家庭連合、旧統一教会)に対し、宗教法人法に基づいて解散命令を出した。教団側は不服とし即時抗告する意向だ。
民法上の不法行為要件に
これまで法令違反を理由に解散を命じられたのはオウム真理教と明覚寺のみで、いずれも教団幹部が刑事事件で有罪となっている。民法上の不法行為が解散要件とされたのは初めてだ。
安倍晋三元首相を暗殺した山上徹也被告が、動機として母親が入信していた家庭連合への恨みを挙げたことからメディアの批判が高まった。しかし報道の多くは、家庭連合と敵対関係にある全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連)の主張や提供情報を鵜呑(うの)みにするもので、常軌を逸する偏ったものだった。
教団と自民党との関係も問題とされる中、内閣支持率のさらなる低下を恐れる岸田文雄首相(当時)は、解散要件に民法上の不法行為も含むと一夜にして宗教法人法の解釈を変更。文部科学省が高額献金などを理由に2023年10月、東京地裁に解散命令を請求し、非公開で4度にわたって双方の証人尋問を行うなど審理が進められてきた。
文科相の諮問機関である宗教法人審議会の中には解釈変更を憂慮する委員もいた。だが、文科省の担当者が「内閣が吹っ飛んでしまう」と説得。政治的な理由のために信教の自由がかくも簡単に踏みにじられたこと自体、憲政史上の汚点だが、司法までがこのような判断を下したのでは法治国家の根幹も揺らぐことになる。
海外では解散命令請求は国際法違反の疑いが指摘され、信教の自由の擁護に力を入れるトランプ米政権関係者をはじめ、多くの有識者や宗教家が強い懸念を表明している。上級の裁判所で解散命令が決定すれば日本は人権後進国の烙印(らくいん)を免れない。
何より懸念されるのは、解散命令の事由に民法上の不法行為も含めたため、今後は政府の意向次第で容易に宗教法人の解散命令を請求することが可能となり、宗教団体の活動や人々の宗教行為に制限がかけられかねないことだ。信教の自由の尊重という点で中国など独裁国家と変わらなくなってしまう。
そもそも献金は額の多寡を問わず宗教行為だ。被害の訴えの多くは、教団に反対する人々による強制改宗(ディプログラミング)で離教した元信者から起きている。問題の背景にこのような深刻な人権侵害があることも東京地裁は考慮していない。
さらに文科省は解散を求める陳述書約300通を東京地裁に提出したが、このうち被害を受けたとされる本人が書いたものでなく、内容に誤りがあるものが複数あることを本紙が報じ、文科省はそれを否定していない。この捏造(ねつぞう)疑惑では、信者の男性が私文書偽造と偽造私文書行使容疑で文科省職員らへの告発状を東京地検に提出している。
テロリストの成功許すな
家庭連合の解散は、結果的にテロリストの狙い通りに社会が動き、最後の砦となるべき司法までがそれを追認することを意味する。山上被告を成功したテロリストにしてはならない。