政府は、大規模災害時や感染症蔓延時に海上で医療を提供する病院船の整備推進計画を閣議決定した。2026年1月に運用を開始する予定だ。
まずは民間の船舶を利用する方針だが、将来的には専用船舶の保有を目指すべきだ。
災害時に海路で支援
計画は、当面の間は民間の船舶を活用して医療提供体制を整備すると明記。船内に一定の空間があるカーフェリーなどの活用を想定している。医療従事者や医薬品は災害派遣医療チーム(DMAT)や日本赤十字社の協力を得て確保する。
患者を被災地から搬送する「脱出船」や、被災地付近に接岸して医療を提供する「救護船」などの役割を担うとしている。計画は、病院船について「宿泊設備、食料、発電設備などを持って自己完結的に活動でき、多くの人・物の運搬が可能だ」と必要性を強調した。
能登半島地震では陸路が寸断され、海路での支援体制を整備することの大切さが改めて示された。石破茂首相は「南海トラフ巨大地震や首都直下地震などの大規模災害の発生時に陸上の医療機能を補完するものであり、準備を着実に進めてほしい」と指示した。
日本では、病院船が終戦まで約30隻運航されていたが、現在は存在していない。阪神大震災などをきっかけに議論が活発化し、新型コロナウイルスの感染拡大も踏まえ、21年6月に成立した船舶活用医療推進法で導入が決まった。
病院船があれば、沿岸部の医療拠点が壊滅的被害を受けた東日本大震災のような状況にも対応できる。しかし、当時は建造にかかるコストがかさむために導入は見送られた。
また、平時にどのように運用するかという課題もある。推進法は、離島の巡回診療や国際緊急援助などに活用するという基本方針を掲げた。災害医療訓練船として運用し、大規模災害時に迅速に対応できるような訓練を重ねる必要もある。
海外の病院船の多くは戦場における負傷者への医療行為を主目的に海軍が保有している。米海軍所属の世界最大級の病院船「マーシー」は1986年に石油タンカーを改装したもので、全長は約272メートル。12の手術室やベッド1000床、コンピューター断層撮影(CT)などの医療機器を備えている。新型コロナ感染拡大の際には患者を受け入れた。中国は病院船による海外での医療支援活動を展開し、国際的な影響力の拡大を図っている。戦略的な意味でも重要
日本でも海上自衛隊の「いずも」型護衛艦などは高度な医療を提供できる。だが、病院船として長期的に利用することは難しい。戦時にはジュネーブ条約で保護される病院船と見なされることもない。
計画では、実績の積み重ねを踏まえて専用船舶の保有につなげると記したが、時期は明示しなかった。
しかし大規模災害への対応はもちろん、国際貢献での活用など戦略的な意味でも病院船の存在は重要だと言えよう。将来的には専用船舶を保有することが望ましい。