岩屋毅外相は中国の王毅共産党政治局員兼外相と都内で会談し、戦略的互恵関係の推進に向けて懸案を解決し、連携を強化していくことで一致した。
しかし、中国が沖縄県・尖閣諸島沖の領海侵入や邦人拘束などの問題に真摯(しんし)に向き合う姿勢を示さない現状で「互恵」を追求することはできない。
歴史や台湾で譲らず
岩屋氏は中国海警船による21日からの尖閣沖の領海侵入に抗議。沖縄県・与那国島南方の日本の排他的経済水域(EEZ)内に中国が設置したブイの即時撤去も求めた。
中国は尖閣の領有権を一方的に主張しているが、主張を始めたのは東シナ海に石油埋蔵の可能性が指摘された後の1971年からだ。尖閣は日本固有の領土であり、中国側の領海侵入は断じて容認できない。ましてや、領海内で日本漁船を追尾するなど危険な行動に出ることは言語道断だ。
また岩屋氏は、アステラス製薬の男性社員ら中国でスパイ容疑で拘束されている邦人の早期解放を要求した。起訴された男性社員の審理は非公開で、どのような行為が問題とされたかは分かっていない。中国で法の恣意(しい)的運用がまかり通るのであれば「法の支配」を重視する日本側の警戒を強めるだけだ。
日中の経済分野の課題について関係閣僚らが議論する「ハイレベル経済対話」では、東京電力福島第1原発の処理水放出後、中国が続ける日本産水産物の輸入停止措置などが主要議題となったが、撤廃を求めた日本側に対し、中国側は具体的な輸入再開時期を示さなかった。これらの懸案解決に中国が積極的に取り組もうとしない限り、戦略的互恵関係の構築は難しい。
中国の習近平政権は石破茂政権発足後、日本との関係改善に前向きな姿勢を示している。ただ中国が日本に接近する背景には、トランプ米政権との対立激化をにらみ、日米の分断を図る思惑があるとの見方が強い。
一方、今年は中国にとって「抗日戦争勝利80周年」に当たり、歴史認識や台湾問題では一歩も譲らない構えだ。王氏は日本滞在中、繰り返し歴史と台湾の問題に言及。過去の軍国主義への反省と台湾を中国の一部とする「一つの中国」の原則が、関係改善に向けて譲れぬ一線であることを改めて訴えるなど日本を牽制(けんせい)した。外相会談の冒頭でも「中日双方が歴史を直視し、疑念を払拭し、関係の改善と発展を前向きに推進することが重要だ」と述べている。
中国こそが反省せよ
習政権は台湾統一に向けて武力行使も辞さないとしており、「独立派」と見なす台湾の頼清徳政権発足後は軍事的圧力を強めている。
王氏は今月の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)に合わせて開いた記者会見で「日本には(軍国主義を)反省せず台湾独立勢力と通じる者がいる。『台湾有事は日本有事』と吹聴することは、日本が自ら事を構えることだ」と非難した。だが覇権主義的な行動で東アジア情勢を不安定化させ、日本や台湾に脅威を与えている中国こそが反省し、行動を改めなければなるまい。