大西卓哉さんら4人の宇宙飛行士が搭乗する米宇宙船クルードラゴン10号機が、国際宇宙ステーション(ISS)とのドッキングに成功。大西さんにとり、2度目のISS長期滞在が始まった。
大西さんは滞在後半にはISS船長に就任する予定で、ISS運用やクルーの安全を守る責任者を務める。日本実験棟「きぼう」では10のミッションを担う。国際的な月探査「アルテミス計画」が始動する中、「次」を見据えた成果を期待したい。
日本人3人目の船長に
大西さんは出発前、「ISSに行くのはこれが最後だと思っている。これまでに培った経験、知見、知識の集大成になる」と語った。宇宙航空研究開発機構(JAXA)から言われたわけではないが、自身の年齢(49歳)や後輩が育ってきていることなどを考えてのことである。
それだけに、大西さんの今回の長期滞在に対する意気込みには並々ならぬものがある。何より「きぼう」での実験では“「きぼう」にできる、ぜんぶを。”を自らのミッションテーマに掲げていて、気持ちがいい。
宇宙飛行士は通常、地上の研究者が考案した実験を手順書通りに行えばよい。しかし大西さんは、世界各国を飛び回る訓練の合間に研究者の元を訪問し、実験の目的や手順のコツなどを直接教わったという。実験の内容を深く理解するとともに、研究者の熱い思いを聞くことで自らのモチベーションをも高めている。
「きぼう」では、膵臓(すいぞう)がんの遺伝子変異を持つショウジョウバエを誕生させ、がん治療薬の効果に微小な重力環境が及ぼす影響を調べる実験や、将来の月探査などへの利用が期待される二酸化炭素除去装置の実証実験などを行う。
長期滞在2回目の大西さんは、実験ばかりでなく、フライトディレクターとして培った知識と経験を生かし、長期滞在クルーや地上の運用管制チーム、実験関係者と協調してミッションを遂行する。後半には若田光一さん、星出彰彦さんに続き日本人3人目のⅠSS船長に就任する予定である。
大西さんが今回の長期滞在に強い意気込みを示す背景には、老朽化のためにⅠSSの運用が2030年に終了することがある。退役したスペースシャトルで活躍した若田さんらの世代と異なり、ⅠSS長期滞在を前提に選抜された「ⅠSS世代」だけに、「ユニークな実験環境であるⅠSSを運用終了まで全力で使い続けるべきだ」との思いが強い。
日本のプレゼンス向上を
アルテミス計画には日本も参画。日本人宇宙飛行士2人が月での探査に参加する予定にもなっている。
大西さんが「きぼう」で取り組む実験は、有人宇宙に関する知見を深めるものも少なくない。全日本空輸の副操縦士から宇宙飛行士に転身した大西さん。アルテミス計画では後輩の飛行士が担当する可能性が高いが、知見や経験では申し分ないだろう。いずれにしても、2度目の長期滞在では「次」につながる成果を挙げ、日本のプレゼンス向上に努めてもらいたい。