石破茂首相が自民党新人議員に10万円相当の商品券を配っていたことが発覚し、個人が政治家に金銭などを寄付することを禁止している政治資金規正法に抵触する可能性を巡って国会で議論されている。首相は違法性を否定しているものの、政治家と私人との峻別(しゅんべつ)をわきまえない公私混同は政権の墓穴を掘ることになる。
新人議員十数人に配布
首相公邸で開いた新人議員との懇談会で出席者十数人に商品券を配ったことが報道されると、首相は「政策推進や特定候補推薦の意図は全くない」と述べるとともに、「本人と家族へのねぎらい」と説明した。服を新調する時の足しにでもと、土産を手渡した感覚である。
「ねぎらい」という気持ちから新人議員に渡したのであれば、私人としての人情から出たものかもしれない。何らかの慶事に10万円相当のお祝い金やギフトなどを贈ることは珍しいことではない。それ以上に高額の祝儀もあるだろう。出席者全員で商品券百数十万円相当という計算も、成功した私人のパーティーや引き出物などにかかる金額と比べ必ずしも高額とは言えない。
それ故に、国会で野党が追及し、「社会通念上、世の中の感覚と乖離(かいり)した部分が大きかった」という言葉を首相から引き出しているが、事の本質をぼかしている。金額の多寡の問題ではなく、むしろ世の中でごく一般的に行われている祝儀のやりとりの習慣が、なぜ政治において規制されるのかという議論を深めるべきではないか。
選挙を初めて勝ち抜いてきた新人議員にねぎらいの金品を渡すことへ違法性の疑いを問うことができる法律を国会で作ったのは、他ならぬ政治家自身だ。政治資金規正法で「何人も、公職の候補者の政治活動に関して寄附をしてはならない」(21条の2の1項)とある。
このため首相は、新人議員懇親会を政治活動ではないと説明している。法解釈の幅はあるが、苦しい説明に聞こえる。特定の政治家に限定して首相公邸で開催された会合であり、新人議員にとっては政治家としての歩みに花を添える政治活動だったと捉えるのが自然だ。
首相公邸での公私混同を巡っては、岸田文雄前首相の親族の忘年会が問題となり、不適切行為の写真が出回って首相秘書官だった岸田氏の長男は更迭された。今回は首相本人による商品券配布であり、政権の行方を左右する事態もあり得る。
法が厳格過ぎれば見直せ
戦後、多くの疑獄事件、汚職事件の教訓を経ながら政治資金規正法、公職選挙法を政治家自ら国会で改正してきており、また条件を満たした政党が国費から政治資金を受け取ることができる仕組みの政党助成法も制定した。政治家が自分たちで作ったルールなのだから自らへの周知徹底が必要だ。
一方、うちわを配るなど民間では何の変哲もない広報行為が政治家の場合、公職選挙法違反に問われたりもする。カネや物品で政治を歪めないためだが、政治資金規正法とともに細かく厳格過ぎないか見直すことも排除すべきではない。