政府は、日本学術会議を現行の「国の特別の機関」から切り離し、特殊法人に改編することを柱とした新しい日本学術会議法案を国会に提出した。
これまで学術会議は特定のイデオロギーに基づく運営が目立った。法人化を健全な運営につなげるべきだ。
軍事忌避の姿勢際立つ
法案には、活動状況を確認する評価委員会や監事を設け、首相が委員らを任命することが盛り込まれている。学術会議が科学技術政策などに関して政府に意見する「勧告権」は残すという。国費による財政支援は継続される。国会で成立すれば2026年10月から施行され、現行法は廃止となる。
学術会議の問題点は軍事忌避の姿勢が際立つことだ。1950年と67年にはそれぞれ「軍事目的の科学研究を行わない」と表明。2017年にも防衛装備庁が将来の装備品開発を目指して研究者に資金提供する「安全保障技術研究推進制度」に懸念を示す声明を発表した。これにより、安全保障に関わる先端技術の研究開発が制約されたとの声が大学の研究現場などから上がった。
覇権主義的な動きを強める中国や核・ミサイル開発を進める北朝鮮の脅威が高まるなど日本を取り巻く安全保障環境は厳しさを増している。こうした中、学術会議は軍事研究を拒否する一方、15年9月には中国で「軍民融合」路線を進める中国科学技術協会と協力覚書を交わした。これは日本の平和を脅かす背信行為だと言わざるを得ない。
こうした学術会議の動きの背景には、発足当初からの日本共産党による浸透工作がある。共産党系の会員が長年にわたって学術会議を政治利用してきたことで、反国家的とも言える姿勢が目立つようになった。学術会議が国益に資する組織となるには、会員選考の透明性向上が欠かせない。
現在の推薦制では、共産党系の会員が同じ共産党系の学者を推すため、学術会議の政治利用を止めることができない。新法案では、従来の首相による任命をやめ、会員による選定委員会が選んだ候補者を総会で選任。外部有識者からなる助言委員会が意見を述べる仕組みだ。特定のイデオロギーに偏らない会員構成にする必要がある。
学術会議の改革は、20年9月に当時の菅義偉首相が会員任命で6人を除外したことがきっかけとなった。任命拒否の理由を政府は明らかにしていないが、6人は安倍政権が制定した安全保障関連法や特定秘密保護法、改正組織犯罪処罰法などに反対していた。
改革は先延ばしできない
政府は23年、会員選考の方法を見直す日本学術会議法改正案の国会提出を目指したものの結局は見送られた。その後、学術会議の在り方を議論する有識者懇談会が「法人への移行が望ましい」との中間報告を提出したことを受け、政府は法人移行に向けた法整備を進める方針を決定した。
学術会議では新法案に対する反発の声も上がっている。しかし、これ以上改革を先延ばしすることはできない。今国会で新法案を成立させるべきだ。