トップオピニオン社説備蓄米入札 増産視野に価格低下へ誘導を【社説】

備蓄米入札 増産視野に価格低下へ誘導を【社説】

米価の高騰を抑制するため政府による備蓄米入札が始まり、入札結果はきょう以降に公表される見通しだ。暮らしに必要な電気、水道、燃料など光熱費に加え、主食のコメの価格上昇は国民の経済事情に直結する。備蓄米放出は苦肉の策だが、コメの増産を視野に価格低下に向けた政策誘導を図るべきだ。

1年で2倍に値上がり

備蓄米入札に江藤拓農林水産相は「価格について安定することを期待する」と述べたが、放出予定の21万㌧のうち15万㌧の入札で価格が下がるか確たる見通しはない。コメ不足が報道され始めたのは昨年夏で、小売店の商品棚にコメがない模様がメディアで頻繁に取り上げられた。

不安を感じた業者や消費者が買いだめに動き、コメの価格は一向に下がらない。昨秋の収穫後、新米が流通しても値上がりし、5㌔の袋詰めの小売価格は概ね4000円を超えている。1年前は2000円台で買えたが、約2倍に値上がりして庶民の台所事情を苦しめている。

農水省によれば昨年、「一部地域で5月下旬から6月上旬にかけての低温や6月下旬から7月中旬にかけての断続的な日照不足、8月以降の記録的な高温等の影響により収量が低下」した。特に記録的猛暑は深刻だ。わが国の米どころは北陸、東北、北海道などで、寒冷地でも収穫できるコメの品種改良が行われてきたが、近年の温暖化は番狂わせをもたらしている。

しかし、天気のせいばかりとは言えない。食管法廃止から30年経つが、市場主義経済にコメを放り出したツケが回ってきていないか。

コメは食料自給率の低いわが国で唯一自給自足が可能な農産物と言われてきた。だが、食べ盛りの若年人口の減少、食文化の多様化に伴い消費量が低下し、生産調整のため減反政策が長年行われ水稲の作付面積が減らされてきた。20年前に約170万㌶あった作付面積が今では約135万㌶に減少している。

減反政策は2018年に廃止された。しかし、その後も作付面積は減り、収穫は増えなかった。市場で競争力のあるブランド米の生産農家は規模のより大きい営農を可能にして増産できるようになったが、競争力のない標準米を手掛ける弱小農家は離農したり、担い手が高齢化して世代交代は進んでいない。

また、20年にコロナ禍が始まり外食にストップをかけたが、コロナ禍後に外国人観光客が増えており、昨年は前年比47%増の約3687万人が来日した。米飯を主食とする日本食の外食需要が高まった。複数の要因が重なってコメの高騰を招いたと言えるが、備蓄米放出という弥縫策で良しとするわけにはいかない。

安定供給維持する農政を

コメは主食であり、食料安保の根幹だ。新自由主義的な市場原理に委ねた結果、1年で2倍に高騰するという落とし穴が生まれたのは失策ではないのか。米価を安くすることは日本にいる人々全てが恩恵を受ける。

国会では教育無償化に関心が集中するが、同じように税金をコメ作りに注ぐ意義はある。コメの安定供給を維持していく農政を求めたい。

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