石破茂首相(自民党総裁)は立党70年の節目となる党大会で、夏の東京都議選と参院選の勝利に向け「総力を尽くす」と訴えるとともに「同志の結束と団結、行動」を求めた。しかし、少数与党としての政権運営にアピールできる材料はなく、党員数も減少を続けるなど党勢回復の展望を示すことはできなかった。
掛け声ばかりが先行
党大会では参院選勝利を「最重要課題」と位置付ける運動方針を採択した。森山裕幹事長も「党の総力を結集して勝利する」「政治の安定を実現して国民を守り抜いていかねばならない」などと語ったが、内容が伴わず、掛け声ばかりが先行していた印象だ。
森山幹事長は党務報告の中で、新たな国家ビジョンを策定し、11月15日の立党記念日をめどに発表すると語った。だが、今の自民党がどこに向かってどういう道筋を進んでいるのか不明だ。安倍晋三元首相が固めた「保守岩盤層」は岸田文雄前政権の時から崩壊し始め、保守層の信頼を失い続けている。
石破首相は「原点に立ち返る」と述べたが、そうであれば党として目指すべき国家像とそれを実現するための道筋は少しでも早く国民に示さねばならない。秋まで待たず、参院選の前に提示して国民の審判を仰ぐべきでないのか。
首相は今国会の冒頭の施政方針演説で「楽しい日本」の国づくりを掲げたが、その中身もはっきりしない。しかも、その実現のカギは与野党の責任ある協力姿勢にあるとした。しかし、具体策で野党に譲歩を続ける姿勢は政権の求心力の欠如を鮮明に表している。
大会前日に行われた全国幹事長会議では、令和7年度予算案への賛成を取り付けるために高校授業料無償化で野党に譲歩を繰り返す執行部への不満が噴出した。高額療養費制度の見直しを巡って政府・与党は二転三転した。年金改革関連法案の国会提出も参院選後に先送りする方向だ。骨太の基本軸がなく、野党の協力を得て政権を維持することを最優先としている政権運営が「自民党らしさ」を喪失させ、党勢回復を妨げていることを知るべきである。
党員数も減少傾向が止まらない。昨年末時点の党員数は102万8662人で、前年から6万2413人減少した。減少は2年連続である。党執行部は「政治とカネ」の問題を解決できていない批判だと分析しているが、それだけではあるまい。国家の伝統と基盤を守る「保守の原点」に立てば、選択的夫婦別姓導入法案を容認すべきでないが、その評価で党内が割れているのが地盤沈下の一要因だ。
効果ない若年層対策
立党時からの党是の憲法改正についても腰が引けている。運動方針で「憲政史上初の大事業である国民投票による憲法改正の早期実現に向けて、国民とともに邁進(まいしん)する」と記したが、昨年の運動方針にあった「年内の実現」の文字は消えた。保守層への配慮で改憲に触れた程度だ。参院選で勝利し流れを大きく変えようといった意気込みは感じられない。SNS発信を強めるという若年層対策も表面を取り繕うだけでは効果はあるまい。