トップオピニオン社説BSL4施設 国民の命守る取り組み強化を【社説】

BSL4施設 国民の命守る取り組み強化を【社説】

厚生労働省はこのほど、エボラウイルスなど危険な病原体を扱う「バイオセーフティーレベル(BSL)4」の施設に長崎大を指定した。BSL4の施設は危険な感染症の流入やバイオテロなどに対処するため、先進国を中心に整備されているが、日本では十分な体制とは言えなかった。国民の命を守るための取り組みを強化すべきだ。

長崎大が指定される

国内でBSL4の施設は、国立感染症研究所村山庁舎(東京都武蔵村山市)に次いで2カ所目。危険度が高い病原体の輸入や譲り受けには、改めて厚労相の承認などが必要となる。村山庁舎の施設は1981年に建設された。しかし病原体の漏洩(ろうえい)など安全面を不安視する地元の反対で、2014年に西アフリカでエボラ出血熱が感染拡大するまではBSL4施設として稼働してこなかった。

14年11月に塩崎恭久厚労相(当時)が、武蔵村山市の藤野勝市長(同)とBSL4施設の稼働に向けて協議を始めることで合意。国内でエボラ熱の患者が見つかった場合、BSL4施設がなければウイルスの分離や培養ができず、十分な治療や検査ができるか懸念されていたからだ。市は15年8月に稼働を容認し、感染研は19年9月、エボラ熱など致死性が高い5種類の病原体を初めて輸入し、村山庁舎で保管を開始した。

だが、この施設は患者の診断のみが可能で、治療薬の開発など研究を目的とした利用はできない。老朽化も進んでいる。BSL4施設は22年の時点で稼働予定を含め、24の国・地域に62施設あるという。欧米先進国の米国に11、英国には七つあるほか、中国に四つ、ロシアにも二つ存在する。韓国や台湾でも稼働している。日本の体制整備の遅れは明らかだ。

日本では、BSL4施設で取り扱うウイルスについては海外でも研究を進めてきた。しかし01年の米同時テロ以降、多くの国が外国人によるBSL4施設の利用を厳しく制限するようになった。その意味で今回、長崎大が指定されたことの意義は大きい。

ウイルスを使った実験でワクチンや治療薬の開発につながるような研究が行われることが期待される。ワクチンを外国に頼らず自国で開発することは、安全保障の観点からも極めて重要なことだ。

ただ住宅街の中にある長崎大でも、地元の不安は根強く、本格稼働までに数年かかるとみられている。施設を安定的に運営するには周辺住民の理解が欠かせず、いかに不安を軽減するかが大きな課題だ。

住民の理解得る説明を

BSL4施設では、実験室の気圧が外部より低く保たれ、ウイルスが外部には漏れない構造になっているほか、2重の高性能フィルターで排気している。実験室に入室するには鍵のついた扉を五つ以上通らなければならず、非常用電源や免震構造も備えている。海外でもBSL4施設の約4分の3は市街地にあるとのデータもある。

国や長崎大は施設の安全性について住民に丁寧に説明し、理解を得る必要がある。

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