トップオピニオン社説米ウクライナ 交渉を決裂で終わらせるな 【社説】

米ウクライナ 交渉を決裂で終わらせるな 【社説】

トランプ米大統領とウクライナのゼレンスキー大統領が会談した。第2次トランプ政権発足後、両首脳の対面での会談は今回が初めてだったが、話し合いは決裂に終わった。

合意文書署名は中止

ロシアとウクライナの戦争は4年目に入った。早期終結を目指すトランプ氏は、ロシアのプーチン大統領と停戦に向けた協議を開始することで合意し、両国の実務レベルの話し合いが進んでいる。

一方ウクライナに対しては、これまでの多額の支援の見返りにその領内の鉱物資源の権益を要求し、合意文書への署名を迫っている。だが権益と引き換えに、戦争終結後のウクライナに米国が「安全の保証」を提供する旨の規定が文書案に盛り込まれておらず、ゼレンスキー氏は署名を拒否してきた。

今回、トランプ氏と直接この問題を話し合い、米国による安全の保障提供の確約を取り付け署名に応じるとともに、トランプ氏のロシアへの急接近を引き留めたいというのがゼレンスキー氏の考えであった。

当初会談は和やかな雰囲気で進んだ。だが紛争解決に向けた外交の必要性を説くバンス米副大統領に対し、ゼレンスキー氏がプーチン氏の合意違反を米国は防げなかったと反論。2人の口論に加わったトランプ氏もゼレンスキー氏を批判し、取引に応じなければ米国は支援を打ち切ると通告するなど非難の応酬で会談は決裂。合意文書の署名は中止され、記者会見も開かれない異例の展開となった。今後への影響が懸念される。

決裂に至った背景には、互いの相手に対する強い不満や不信感がある。ゼレンスキー氏は、自らの功名心から早期の停戦実現に拘(こだわ)るトランプ氏が当事国のウクライナを加えず、ロシアと停戦協議を一方的に進めていることへの不満がある。またトランプ氏がプーチン氏に引き摺(ず)られ、領土の放棄や北大西洋条約機構(NATO)への加盟拒否など不利な条件での停戦をウクライナが強いられることへの不安も大きい。

一方のトランプ氏や米政権幹部は、奪われた領土の奪還に拘り停戦に消極的であり、また米国の支援に対する感謝の念に欠けているなどとゼレンスキー氏に批判的である。

力による現状変更を認めるような安易な停戦合意を受け入れることはできない。それは法の秩序に反するばかりか、中国など世界に誤ったメッセージを発することにもなるからだ。

両国は合意への努力を

他方、早期の停戦実現とその継続性の確保、そしてロシアの再侵略を防ぐにはウクライナへの米国の関与と支援が必要である。それ故、交渉を決裂で終わらせてはならず、合意に向けた努力が米国とウクライナの双方に求められる。両国の対立はロシアを利するだけである。

日本を含む各国はトランプ政権に対し、ウクライナ支援継続を求めるとともに、対露協議の中で国際正義に悖(もと)るような譲歩を受け入れぬよう働き掛けていく必要がある。ゼレンスキー氏には冷静さを取り戻し、交渉を軌道に戻すなど米国との関係回復に努めることを期待したい。

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