インバウンド(訪日客)の増加で、日本の観光立国化が進む一方、オーバーツーリズム(観光公害)が問題となっている。需要を取り込みつつ、弊害を緩和する道を探るべきだ。
京都はバス混雑が深刻化
昨年の訪日客数は、過去最多の3686万人となり、消費額も8兆円を超えた。今年1月は、春節が始まり中国からの訪日が増えたこともあって、単月として過去最高の378万人となった。オーストラリアや米国からのスキー客も増えている。
観光立国を目指す政府は、30年に訪日客6000万人、消費額15兆円を目標に掲げているが、決して不可能ではない状況となっている。一方、1カ所に訪日客が集中したり、市民の生活圏に観光客が押し寄せることによる弊害も起きている。
京都市では訪日客の増加で市民の足であるバスの混雑が深刻化。他の観光地ではゴミのポイ捨て、民泊の増加による住宅地の騒音が問題になっている。海外インフルエンサーのSNSへの写真投稿で、これまで観光客が来なかった地方のコンビニの前に多くの訪日客が訪れ、交通安全上の問題も起きている。
訪日客には観光案内所で配る地図などに書き込んだり、SNSで閲覧できるようにしたりするなどして、事前にマナーを周知させる必要がある。これは訪日客が住民とのトラブルで嫌な思いをしないためでもある。
インバウンド需要の高まりは歓迎すべきであり、観光およびその関連産業は、将来、日本の産業の大きな柱となるとみられる。とりわけ地方は観光振興への期待が大きい。そのためにも地方への誘客、拡散が重要だ。
政府は昨年3月に閣議決定した「観光立国推進基本計画」で「持続可能な観光」「消費額拡大」と共に「地方誘客促進」を掲げた。全国14地域を複数年、集中支援するモデル地域に選定し、北陸エリアや松本・高山エリアなど効果が出てきている。
しかし、日本の地方にはまだまだ多くの観光資源が埋もれている。風景や食文化など地方色の豊かさも特徴だ。とりわけリピーターであるほど地方への関心は高い。海外のインフルエンサーだけでなく、地方の自治体、観光関連の人々が積極的にSNSなどで発信することで、多くの訪日客を呼び寄せることは可能だ。赤字に悩むローカル線も美しい沿線風景を発信し、観光路線としてアピールすべきだ。
地方は、海外から観光客が来ることを想定していない所が多い。観光公害を未然に防ぐためにも、一層のインバウンド需要の高まりを想定し、受け入れ態勢を整える必要がある。
観光戦略は文化戦略
現在の訪日客の活況は円安が背景となっており、将来、円高になれば減少するのではないかとの懸念もあるだろう。しかし、日本の観光地としての魅力は大きく、観光を地方創生の柱にして大きく舵(かじ)を切るべきだ。
訪日客増加は経済的利益をもたらすだけではない。日本と日本文化に直接触れた外国人が増えれば対日理解が深まる。それが日本の文化力の基盤になる。文化大国のフランスが観光大国であることが好例だ。インバウンド戦略は文化戦略でもある。