政府は米ニューヨークで3月に開かれる核兵器禁止条約第3回締約国会議へのオブザーバー参加を見送る方針を決めた。核抑止力の必要性を踏まえたもので妥当な判断だ。
核による威嚇も禁じる
オブザーバー参加は条約に署名や批准はしていない国が、締約国会議に参加すること。日本の不参加は3回連続となる。日本を取り巻く安全保障環境が厳しさを増す中、米国の「核の傘」を含む拡大抑止が必要な現状を踏まえた判断だ。岩屋毅外相は「オブザーバー参加は、わが国の核抑止政策について誤ったメッセージを与え、自らの平和と安全の確保に支障を来す恐れがある」と強調した。
石破茂首相は一時、政府としてのオブザーバー参加を見送る代わりに、自民党の国会議員を派遣する案を検討した。ただ、自民は「派遣しても会議そのものに参加できるわけではない」などとして所属議員は送らない方針だ。一方、公明党や立憲民主党は所属議員を派遣する。
この条約は、核兵器が使われれば壊滅的で非人道的な結末を招くとして、核兵器の開発、実験、生産、取得、貯蔵、保有、使用、威嚇などを全面的に禁止した多国間条約。2017年に国連で賛成多数で採択され、21年に発効した。現在の締約国数は73カ国・地域に上る。
条約の問題点は、核による威嚇も禁じていることだ。威嚇と抑止は表裏一体で、この条約に参加すれば「核の傘」を失うことになりかねない。日本の周辺では、北朝鮮が核・ミサイル開発を進め、ウクライナを侵略するロシアは核の脅しを繰り返している。台湾への武力行使も辞さないとする中国は、核弾頭数を30年までに1000発以上に増やすと予測されている。こうした国々の核攻撃を抑止するには、米国の「核の傘」を含む拡大抑止が不可欠だ。
日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)のノーベル平和賞受賞で核廃絶への機運は高まっている。今年は広島、長崎への原爆投下から80年という節目の年でもある。被団協は首相にオブザーバー参加を強く要請してきた。被爆者の切実な思いは理解できる。
ただ核禁条約によって核廃絶を実現できればいいが、条約に米露などの核保有国は参加していない。岩屋氏はオブザーバー参加見送りの理由として核軍縮の実効性が見込めないことも挙げ、今後も核拡散防止条約(NPT)の下で核軍縮の取り組みを進める考えを示した。
核禁条約には日本のほか、やはり米国の「核の傘」に依存する北大西洋条約機構(NATO)加盟国も参加していない。過去2回の締約国会議には、ドイツなどの非締約国も参加している。しかし、ドイツなどは核禁条約参加を否定。オランダは会議参加後、外相が「オブザーバー参加に意味がない」とする書簡を下院議長に提出した。
「核共有」も検討せよ
日本が核抑止力を強化して平和を守るには、米国の核兵器運用に参加する「核共有」も検討すべきだ。「核兵器を持たず、作らず、持ち込ませず」とする「非核三原則」の「持ち込ませず」を見直す必要がある。