北朝鮮による拉致被害者の有本恵子さんの父明弘さんが96歳で死去した。40年以上にわたって恵子さんの帰国を待ち望みながらも、とうとう再会することはできなかった。あまりにも悲痛だ。多くの日本人を拉致して家族を引き裂いた北朝鮮への憤りを禁じ得ない。日本政府は一日も早く全ての拉致被害者の帰国を実現すべきだ。
娘との再会果たせず
恵子さんはロンドン留学中の1983年にコペンハーゲンから家族に宛てた手紙を最後に消息不明となったが、後に北朝鮮にいることが判明。明弘さんは、2020年2月に94歳で死去した妻嘉代子さんと共に救出のために奔走し、拉致被害者家族連絡会(家族会)の副代表も務めるなど拉致問題の解決に向けて尽力した。それでも恵子さんとの再会は果たせなかった。どれほど無念だっただろうか。
明弘さんの死去を受け、石破茂首相は「一日も早い被害者帰国をあらゆる手段を使って実現させねばならない」と述べた。拉致被害者の親世代で存命なのは横田めぐみさんの母早紀江さんのみとなった。89歳の早紀江さんは「いよいよ一人になってしまった」と吐露している。拉致問題解決には一刻の猶予も許されない。
北朝鮮が日本人を拉致したのは、工作員が日本人に成り済ますため、日本語などを教えさせるためだったという。1987年11月の大韓航空機爆破事件の実行犯、金賢姫元工作員に日本語を教えたのは、拉致被害者の田口八重子さんとされている。拉致はまさに北朝鮮の国家犯罪であり、凶悪で身勝手な工作活動のために日本人を利用したことは断じて容認できない。
恵子さんの拉致を巡っては、日航機「よど号」ハイジャックのメンバーの一人・魚本(旧姓安部)公博容疑者が実行犯として国際手配されている。実行犯の身柄の引き渡しも北朝鮮に強く要求しなければならない。
北朝鮮は2002年9月17日の日朝首脳会談で拉致を認め謝罪。地村保志さん、富貴恵さん夫妻、蓮池薫さん、祐木子さん夫妻、曽我ひとみさんの5人とその家族が帰国した。しかし、その後の進展はない。北朝鮮は恵子さんについて就寝中にガス中毒で死亡したと日本に伝えたが、これを裏付ける客観的な証拠は示されていない。
北朝鮮は「拉致問題は解決済み」としている。本紙の報道によれば、北朝鮮の金正恩総書記は日本が拉致問題を前面に出さないなら日本側との対話を拒む理由はないとの認識を示した。冗談ではない。北朝鮮は本来、即時に全ての拉致被害者を帰国させなければならないはずだ。この問題での責任逃れは許されない。日本は拉致・核・ミサイル問題の包括的解決に全力を挙げる必要がある。
家族の声重く受け止めよ
家族会と支援団体「救う会」は政府に対し「親世代の家族が存命のうちに全拉致被害者の一括帰国を実現することが、人道支援や独自制裁解除、国交正常化後の経済協力をする条件だと内外に明らかにすることを求める」などとする新しい運動方針を決めた。政府は被害者家族の声を重く受け止めるべきだ。