トップオピニオン社説高額療養費制度 患者の深刻な状況を直視せよ 【社説】

高額療養費制度 患者の深刻な状況を直視せよ 【社説】

医療費が高額となった場合に患者負担を抑制する「高額療養費制度」の患者負担上限引き上げを巡って議論が続いている。負担増によって患者が治療をあきらめることのないようにしなければならない。

負担引き上げに反発

政府は昨年末、所得区分を細分化するなどして今夏以降3段階に分けて上限額を引き上げる案をまとめた。例えば年収約700万円の場合、負担上限額が月約14万円となり、現在より約6万円高くなる。

がん患者などは治療が長期間にわたるため、直近12カ月以内に3回以上負担上限額を超えると、4回目からは上限額を引き下げる「多数回該当」の仕組みがある。現行では、年収約700万円で4回目以降の上限額は月4万4400円。政府案では月7万6800円に上昇する。これに対し、患者団体などが反発。政府は多数回該当について全ての所得区分で上限額引き上げを見送る案を示した。

患者負担の上限引き上げは、賃金上昇分の反映や、子供・子育て支援策に必要な財源捻出などが狙いだ。また高齢化や高価な薬剤の普及に伴って制度の利用が急増し、現役世代の保険料負担軽減が課題になっていることも背景にある。

こうした事情は理解できる。ただ、負担増で患者が治療を中断する事態は避けるべきだ。全国保険医団体連合会などががん患者を対象に行った緊急調査(複数回答)では、上限額が引き上げられた場合、46%が「治療を中断する」、61%が「治療の回数を減らす」と回答している。患者の深刻な状況を直視する必要がある。

高額療養費制度がセーフティーネットとしての役割を果たせなくなってはならない。その意味で、政府が患者の意見を聞かずに負担上限引き上げ案をまとめたことは拙速だったと言わざるを得ない。

一方で国の医療費の効率化も避けられない。石破茂首相は2026年度から市販薬と効果やリスクが似ている「OTC類似薬」への保険適用を見直すと国会で答弁している。ムダなものがあれば削減し、本当に必要なところに予算を投入しなければならない。

医療費の膨張を防ぐには、自分自身の健康に責任を持ち、軽度な身体の不調は自分で手当てする「セルフメディケーション」も私たち一人一人に求められよう。もちろん重い症状であるにもかかわらず我慢して病院に行かないことがあってはならないが、多くの人が安易に医師にかかれば医療費が膨らむことは目に見えている。

リテラシー向上も課題

ただインターネット上には、医薬品の販売許可を得ていない違法なサイトや、安全性が確認されていない医薬品の販売サイトもある。健康や医療に関する正しい情報を手に入れ、理解して活用するための「ヘルスリテラシー」の向上も大きな課題だと言える。健康上の問題がなく、日常生活を送れる期間を示す「健康寿命」の22年の推計値は、男性が72・57歳、女性が75・45歳だった。この期間をさらに延ばせるよう、国を挙げて取り組む必要がある。

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