地域の有形・無形の文化財を活用して観光振興や地域の活性化につなげる「日本遺産」の認定が始まってから今年で10年になる。
発信を強化して内外の認知度を高め、地方創生の重要な柱としたい。
文化財の「ストーリー」
日本遺産は地域に残るさまざまな文化財群を「ストーリー」として捉え整備・活用しようというもの。点在する有形・無形の文化遺産を「面」として活用することによって地域の活性化を目指す。
2015年に創設され、文化庁によって現在104件が認定されている。認定後は整備・活用状況が審査される。今年2月は北海道小樽市が申請し候補地となっていた「北海道の『心臓』と呼ばれたまち・小樽」を新たに認定した。産官学の連携体制が評価された。
一方、福岡県の太宰府天満宮を含む「古代日本の『西の都』」は、地域活性化の取り組みに一層の改善が必要などとして候補地域に格下げされた。日本遺産の認定が取り消されるのは初めてだ。26年度以降に再度申請できるが、古代、東アジア諸国との交流の玄関口であった大宰府を中心に豊かなストーリーを持つ文化遺産の活用に改めて取り組んでほしい。
10年前に認定され、3年前に条件付きで認定とされていた鳥取県三朝町の三朝温泉と三徳山を中心にした「六根清浄と六感治癒の地」は、今回の再審査で認定継続となるだけでなく、他の地域のモデルとなる「重点支援地域」に選定された。住民が日本遺産に誇りを持てるようにと取り組んできた教育現場での活動、内外に広く発信していくために観光協会に外国人を採用したことなどが評価された。
実際その成果は表れており、三朝町を訪れる外国人観光客は14年には約4000人だったのに対し、24年には1万4000人になった。
世界遺産に比べて日本遺産はまだまだ認知度が高いとは言えない。地元で知られてはいるが身近な分、その文化的な価値やユニークさに気付いていないケースも少なくない。
日本遺産はそのような地元の文化遺産を広い視野から評価するという意味もあった。子供たちへの教育も重要だ。そこから地元への誇りが育ち、観光資源として生かすことにも熱が入ってくる。
省庁を超えた連携も
24年の訪日外国人数は過去最多の3686万人に達し、政府は30年には6000万人を目標としている。日本は本格的に観光立国への道を歩み出し、観光および観光関連産業は重要産業の一画を占めつつある。とりわけ地方の活性化のために観光は柱となる。
地方創生は単に産業が活性化するだけでなく、地方に生きる人々がその地域に誇りと喜びを持って暮らすようになることが目標である。
日本遺産は文化的なストーリーを提供するという点で、地方創生の柱の一つに位置付けられるべきである。文化庁が主管する制度であるが、より効果的な活用のためには省庁を超えた連携も重要になってこよう。