自民党が選択的夫婦別氏(別姓)制度に関する党内論議を本格化させた。「選択的」とはいえ、この制度の本質的問題は夫婦だけでなく親子も別姓にしてしまうことだ。すなわちそれは家族の解体を意味するとともに、伝統文化の破壊につながるから、絶対に容認できない。
子供の視点置き去りに
党本部で開かれた「氏(姓)制度のあり方に関する検討ワーキングチーム」の会合では①戸籍制度の原則の維持②旧姓使用制限が経済・社会活動に与える影響への早急な対応③親や兄弟姉妹の姓の違いによる子供への混乱を考慮④家族の一体感維持⑤国民の意見を反映した合意形成――の五つの論点が示された。
この中で特に重要視すべきは戸籍制度と家族の一体感の維持だ。これらを維持すれば、必然的に子供に混乱を及ぼす制度導入はできないという結論に達する。
家族は社会の基礎的な構成単位だ。そこで使われる姓は家族の一体感を示す「家族の呼称」である。別姓制度は姓を「個人の呼称」に変え、社会の構成単位も個人にしてしまう。当然、家族の一体感は弱まってしまう。
家族の絆の強さは、日本文化の特徴だ。しかし、少子高齢化や単身世帯の増加などによって、日本の家族文化は揺らいでいる。そんな中での別姓導入は、わが国の伝統文化を大きく損ねることになるだろう。
導入推進派が賛成理由として挙げる結婚時の改姓の不利益は、旧姓の通称使用拡大で十分解消できる。生まれ育った家の姓を大切にし、結婚後も名乗り続けたいという気持ちは理解できるが、子供の視点が置き去りにされている。日本経済団体連合会は昨年6月、DEI(多様性、公平性、包摂性)の視点から別姓制度導入を提言した。しかし、子供の混乱を無視した提言は無責任極まりない。
一方、法制審議会は平成8年、夫婦別姓導入を答申した。これに関し、石破茂首相(総裁)は先月末、国会で「いつまでも結論を先延ばしにしていい問題とは考えていない」と述べた。導入推進派からは長い間、法改正に至らないのは「異常」との声も上がる。しかし、大阪大学名誉教授の加地伸行氏は近著『間違いだらけの家族観』で同審議会について「メンバーは法律家ばかりであって、家族の伝統とか文化とかいった方面の人材を抜きにし偏向している」と指摘している。結論を出すなら、日本の家族についての洞察を欠き偏った答申であることを念頭に置く必要がある。
旧姓の通称使用拡大を
内閣府が令和3年12月に行った世論調査では「旧姓の通称使用について法制度を設ける」(42・2%)を含め夫婦同姓維持派が7割に達した。別姓は「子供に好ましくない影響がある」と答えたのも7割だった。世論が夫婦同姓維持であることは明らかで、自民党は旧姓の通称使用拡大で意見をまとめるべきだ。
自民党は令和5年6月、党内保守派の反対を押し切って、LGBT理解増進法を成立させ、保守層離れを招いた。夏の参院選を前に家族の形を壊す法律を成立させれば、さらなる保守層離れを引き起こすだろう。