警察庁が公表した2024年の犯罪情勢統計によると、刑法犯認知件数は前年比4・9%増の73万7679件で3年連続で増加した。
匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)の暗躍などで「治安が悪化した」と感じる国民も増えている。当局は威信を懸けて治安の回復に取り組まなければならない。
ネット送金で被害拡大
特に問題となっているのは、トクリュウが関与する特殊詐欺とSNS型投資・ロマンス詐欺だ。特殊詐欺の被害額は前年比269億円増の721・5億円(暫定値)、投資・ロマンス詐欺は前年比812・8億円増の1268億円(同)で、いずれも過去最悪だった。
原因の一つとしてインターネットバンキングの普及が挙げられる。非対面で送金できるため、金融機関の被害防止策が奏功しない。ネットバンキングには振込金額の上限がないため、被害額も高額になるケースが目立っている。
特殊詐欺の認知件数は前年比10・2%増の2万987件。このうち500万円以上を振り込ませた事案については、60・6%がネット送金で被害額の67・3%を占めた。電話などでネット送金を要求された場合は、詐欺の恐れがあるので対応せずに警察に通報してほしい。警察も啓発を強化すべきだ。
一方、投資・ロマンス詐欺の認知件数は前年比6318件増の1万164件で、このうち4903件がネット送金だった。既遂1件当たりの被害額は平均1247・9万円で、特殊詐欺の平均352・5万円を大きく上回った。
投資詐欺では、1~4月に著名人らに成り済ました偽広告などを入り口とする事案が急増。7月以降はインスタグラムなどのダイレクトメッセージで接触した後、ラインでのやりとりに移る事案が目立った。
投資詐欺では「必ずもうかる」などの甘言を用いるため、こうしたケースは警戒する必要がある。また、投資を勧められた暗号資産(仮想通貨)や投資アプリが実在するかネットで検索することも被害防止のために心掛けてほしい。
警察庁が昨年10月に実施したアンケートでは「ここ10年で日本の治安が悪くなったと思う」と回答した人が前年比4・7ポイント増の76・6%に上った。一連の詐欺のほか、トクリュウによる闇バイト強盗が相次いだことも背景にあろう。当局は国民の安心・安全を確保するため、トクリュウの壊滅に全力を挙げなければならない。
新たな捜査手法を生かせ
トクリュウの情報を得ることは難しく、なかなか首謀者の検挙に結び付かない。カギの一つは、18年に導入された「司法取引」だ。容疑者や被告が他人の犯罪に関わる情報を検察官に提供すれば、不起訴や軽い求刑などの見返りを得られる制度で、トクリュウの摘発に向けて効果的に活用したい。
警察庁は先月、捜査員が架空の身分証を使って闇バイトに応募する「仮装身分捜査」の導入を決めた。
新たな捜査手法を治安の回復に生かす必要がある。