2024年の農林水産物・食品の輸出額が前年比3・7%増の1兆5073億円となり、12年連続で過去最高を更新した。日本食ブームの中で関心はさらに高まるとみられる。品目や輸出先の多様化、高付加価値化を図って拡大していきたい。
中国大幅減も新市場開拓
初めて1・5兆円台に乗せることができた背景には円安効果もあったとみられるが、何より輸出先の多様化が奏功した。最大の輸出先だった中国が、東京電力福島第1原発の処理水放出を理由に日本産水産物の輸入を規制したため、加工場を中国からメキシコに移し、米国に輸出するなど新市場を開拓した。
中国への輸出は前年比29・1%減の1681億円だったが、米国向けは17・8%増の2429億円となり、04年以来20年ぶりにトップとなった。台湾は11・2%増の1703億円で3位。春節(旧正月)の贈答用リンゴの引き合いが強かったという。日本食人気が高い欧州連合(EU)向けが18・5%増、韓国やベトナムも1~2割増で、中国と香港を除く上位国・地域は軒並み過去最高を更新した。
中国の理不尽な禁輸措置による損失を埋め合わせるだけでなく、新しい市場の開拓に繋(つな)がった。禍を転じて福となしたわけだが、日本の農林水産物は輸出品として高い潜在力を持つ。輸出努力によって市場拡大の可能性が開けることを学ぶきっかけにもなった。
政府は輸出拡大の余地が大きい農林水産物29品目を「輸出重点品目」としているが、他の品目でも新市場の開拓を進めていくべきだ。
実際、これまで日本からの輸出品としては、それほど注目されていなかったカレールーやマヨネーズなど「ソース混合調味料」の輸出額が15・9%増の629億円で増加額が最も多かった。カレールーは欧米や韓国向けの輸出が好調で、その背景には、観光で日本を訪れたアジア系の人たちが日本のカレーの味を体験したのが大きいという。
これらの追い風となっているのが日本食ブームである。日本の農林水産物・食品の特長は安さより品質の高さ、高付加価値性にあると言える。リンゴやブドウなどの果物や和牛なども手間暇をかけた品物が多い。農林水産物の輸出は日本の文化の輸出でもある。
政府は農林水産物の輸出額を25年までに2兆円、30年までに5兆円に拡大するという目標を掲げている。江藤拓農林水産相は「高いハードルかもしれないが、決して達成不可能ではない」と強調している。さらなる輸出先や品目の開拓、輸出先のニーズの研究によって拡大を図っていきたい。
訪日客へのアピールも
中国の禁輸措置に対しては、今後もその不当性を指摘し、早期の撤廃を求めていかなければならない。しかし、中国が禁輸解除を外交的な取引の材料にしてくることには十分注意する必要がある。
輸出の過度な対中依存は常にリスクが付きまとう。それよりは、新しい市場の開拓に力を注ぐべきだ。インバウンドの増加の中で訪日客にアピールするなど発信努力も重要になろう。