元タレントの中居正広さんと女性との性トラブルを報じてきた「週刊文春」は電子版に続き最新号の誌面でも「訂正」記事を掲載し謝罪した。最初の記事掲載から1カ月が経過してからの訂正は、フジテレビへのCM差し止めが相次ぐなど事態の深刻さを見ると、遅きに失していると言わざるを得ない。
橋下氏「不誠実」と指摘
しかも社外から指摘を受け訂正するのは自主性に欠ける。編集部は、報道機関の一翼を担うことについての責任意識を欠いていたのではないか。なぜ訂正が遅れたのかをはじめ、発行元の文藝春秋は詳細に調査し説明責任を果たすべきである。
昨年12月26日発売の第1弾記事では、性トラブル当日の会食に、フジテレビ幹部A氏が女性を誘ったと報じていた。しかし先月28日、編集部はその後の取材で、会食に誘ったのは中居さんだったことが判明したとして訂正・謝罪した。その上、30日発売の最新号では、元大阪府知事で弁護士の橋下徹氏に「しれっと誤りを上書きするのは不誠実」との指摘を受け、電子版に訂正を追記したと説明した。
第1弾記事は、女性の知人の話として「『Aさんに言われたからには断れないよね』と、参加する」「『A氏に仕組まれた』と感じた彼女は」と、性トラブルへのA氏の関与を強くにじませた記事だった。しかし、編集部は第2弾以降、食事に誘ったのは中居さんとの前提で報じる一方、女性はA氏が関わっていた食事会の「延長」にあったと会食を捉えているなどの経緯から「A氏が件のトラブルに関与していた事実は変わらない」と主張している。
フジテレビの幹部社員が性トラブルに直接関わっていたか否かは、同社の責任を問う上での重要部分だ。週刊誌であっても事実を正確に伝える責任を負っていることは言うまでもない。新たな取材で会食に誘った人物が特定できた時点で訂正記事を出すべきだった。それが1カ月もずれ込むのは不自然である。橋下氏による指摘がなければ訂正が出なかった可能性もある。
先月27日のフジテレビの記者会見が紛糾し、約10時間半にも及んだ原因の一つに、会食に社員が関わっていないとする会社側の説明に一部記者が納得しなかったことがある。訂正が会見前に出ていれば、前提事実が変わるため、会見があそこまで前代未聞の様相を呈することはなかっただろう。この点でも文春に責任の一端がある。
しっかり裏付け取材を
中居さんの性トラブル問題は、フジテレビに女性アナウンサーを接待に利用する体質があったかどうかに焦点が移っている。だが、伝聞を中心に書かれた最初の記事に重大な誤りがあったとすれば、同社の社風を告発する伝聞情報の信憑(しんぴょう)性にも疑いが生じてしまう。
週刊誌は、裏付け調査が十分でない伝聞をそのまま掲載することが珍しくない。読者はこうした特徴をよくわきまえて読む必要がある。SNSで伝聞にすぎない情報が確定した事実のように拡散する時代だ。週刊誌側もこの時代の変化を踏まえ、裏付け取材をしっかり行った上で記事を掲載すべきである。