石破茂首相は施政方針演説で地方創生を看板政策として掲げ、「令和の日本列島改造」を打ち出した。
これをただの看板で終わらせず、東京一極集中打破の決定打とするために不退転の姿勢で取り組むべきである。
若者や女性の定着目指す
石破首相は、かつて田中角栄元首相が進めた「日本列島改造」が、道路や鉄道などハードなインフラ整備を起点とするものであったのに対し、令和の列島改造ではソフトの魅力から新たな人の流れを生み出すことを目指すとしている。産業や社会のソフト化、IT化の中で当然の方向と言える。
具体的には①若者や女性にも選ばれる地方②産官学の地方移転と創生③地方イノベーション創生構想④新時代のインフラ整備⑤広域リージョン連携――の五つを柱とするという。
少子高齢化、東京一極集中、地方消滅などの課題は、若者や女性が地方で生活するようになれば解決の道が開かれる。いわゆる「関係人口」に着目し、「ふるさと住民登録制度」なども検討を早急に進めるべきだ。
都市と地方の賃金格差の是正も重要だ。魅力ある産業を地方に育てることが大きな課題だ。IT化が進み情報環境も都市と地方の差は縮小しつつある。
ただ、それだけで都市生活の魅力を体験した若い世代が地方に簡単にUターンするとも思われない。都市型の個人主義的なライフスタイルから地方の家族や地域との繋(つな)がりを重視するものへと向かうには意識の転換が必要だ。そういう中で、都市から地方への大きな人の流れが生まれなければならない。
その流れを生み出すには、まず「隗(かい)より始めよ」だ。政府機関、省庁の移転を改めて検討し断行すべきである。石破首相は「防災庁など政府関係機関の地方移転、国内最適立地を推進します」と述べている。これは新設の防災庁だけでお茶を濁すようなことにすべきではない。
デジタル庁などは率先して地方に移転すべきである。他の省庁も例外ではない。政府機関の地方移転は、主なところでは文化庁の京都移転にとどまっている。官僚たちの抵抗を退け断行する覚悟が石破首相にどれだけあるのかが問われてくる。政治の師である田中元首相のような覚悟と手腕が求められる。
「令和の列島改造」は、田中元首相時代とは異なる社会状況に対応した、さまざまな新概念が散りばめられているが、下手をすると総花的、散発的な効果で終わる恐れがある。災害に強い国家造りの観点からも、東京一極集中の打開や政府機能の地方移転は急がねばならない。南海トラフ地震の発生に警戒・関心が集中しているが、首都直下型の大地震の発生を想定しての危機管理対策がどれだけ進められているのかが問題だ。
リニア早期開業に尽力を
開業予定が遅れているリニア中央新幹線も、地方創生や政府機能の移転の中で位置付け、開業を早めるため政府はより一層の力を注ぐべきである。環境問題など課題があるので敢(あ)えて触れないのか。石破首相の災害に強い国造り、令和の列島改造への本気度が問われている。