米国で第47代大統領にトランプ氏が就任した。政権復帰を果たしたトランプ氏の就任演説は、選挙を通じて掲げた公約に基づいており、バイデン前政権が進めた急進左派政策を大きく転換する「常識の革命」開始の宣言だった。急進左派政策の“輸出国”となった米国に「常識」を戻すトランプ政権を見守りたい。
「神に救われ」試練越える
不法入国を取り締まる、犯罪カルテルを許さない、性別は男性と女性だけ、人種を区別しない能力主義の社会を築く――。数分前まで現職の正副大統領だったバイデン氏とハリス氏のそばで堂々と政策転換を宣言していくトランプ氏は、豪胆で威容を誇っていた。だが、内容そのものは常識的で当たり前とも言えるものだ。
しかし、このような発言を政治家がすることに勇気がいるほど、米国のエリート層である学術界やマスコミ、そしてオバマ政権とバイデン政権の通算12年続いた民主党政権下の政府は過剰なまでにリベラル化した。オバマ、バイデン両政権に挟まれたトランプ氏の大統領1期目は、マスコミから排撃され、2016年大統領選へのロシア介入疑惑を追及されるなど、執拗(しつよう)な政権潰(つぶ)しの攻撃で包囲された。
演説の初めに「われわれの主権と安全は回復される。正義の均衡は取り戻される。悪意があり、暴力的かつ不公正な司法省と政府の武器化は終わる」と苦言を述べざるを得ないほど、トランプ氏の出馬の可能性さえも潰そうとした訴追の連発は露骨だった。単純に比較はできないが、わが国で同じことが起きれば、標的にされた政治家は出馬の芽を摘まれるどころか政治生命を失ったことだろう。
その上、トランプ氏は選挙集会の場で身体的に抹殺されそうになった。「過去8年間、私は250年に及ぶ米国の歴史で、どの大統領よりも試練を受けてきた。(中略)われわれの大義を阻止しようと望む人々は、私の自由、そして実際に命を奪おうとした」。演説でこのように前置きし、ペンシルベニア州での暗殺未遂事件について「私の命が救われたのには理由があったのだとその時感じた。今ではその確信を強めている。私は米国を再び偉大にするために神に救われた」と述べた言葉は、決して大げさではないだろう。
トランプ氏が初日から断行した「常識の革命」は、ネガティブキャンペーン、さらに暗殺の恐れにもひるまず、内面に強めた「確信」に裏打ちされた勇気を伴うものと言える。公約は口先だけでなく実行することを初日から米国および世界に知らしめた影響は小さくはない。
世界平和への舵取りも
一方、外交政策はあまり語られなかった。米軍を世界最強にし、「平和を構築する者、団結させる者」たらんとするトランプ氏の交渉は、ウクライナで戦争をしているロシアをはじめ、中国、北朝鮮、イランなどを相手に難しい問題が横たわっている。同盟国に軍事費増額を要求し、関税引き上げを実施した場合の軋轢(あつれき)は想像に難くない。
米国第一と世界の平和や団結に整合性を取る外交の舵(かじ)取りをトランプ政権に注文したい。