自民党、公明党と中国共産党との第9回日中与党交流協議会が北京で開催されたが、米国のトランプ次期政権が関税政策と強硬な対中政策を公約していることを受けて、中国側が戦狼外交を軟化させたところへ少数与党となった自公が接近したにすぎない。加えて往時と比べ国力は逆転しており、交渉力の弱さを印象付けた。
6年3カ月ぶりの開催
日中与党交流協議会は沖縄県・尖閣諸島を巡る日中の関係悪化や、香港の民主派弾圧、新疆ウイグル自治区でのウイグル族に対する人権弾圧などへの国際非難、新型コロナウイルス感染拡大などによって中断されていた。前回、開催されたのは6年3カ月前の2018年10月で、中国の巨大経済圏構想「一帯一路」のプロジェクトに日本が協力し推進する趣旨の共同声明を発した。同構想に日本を巻き込むのが中国側の狙いだった。
しかし、その後の中国では不動産バブルがはじけて景気は後退するも自動車、鉄鋼などの生産技術は向上し、今や技術立国として先端技術を磨いている。自動車をはじめ中国市場は中国製品のシェアが増し、化粧品のような流行商品も日本市場に進出している状況だ。中国で稼ぐ力を失い、競争力を失った外国企業は撤退が相次いでいる。
今回の日中与党交流協議で自民党の森山裕幹事長、公明党の西田実仁幹事長は、東京電力福島第1原発の処理水放出に対して中国が取った日本産水産物の禁輸措置の撤廃、日本産牛肉の輸入再開、精米の輸入拡大などを要求した。農畜水産物輸出に関するものであり、工業国としての立ち位置から離れていた。
もっとも米国は、中国への技術流出を警戒している。米政府は人工知能(AI)向け先端半導体の中国への迂回(うかい)輸出を封じる規制措置を打ち出すなど、対中デカップリングが進む兆しがある。わが国も同盟国として工業技術分野での対中経済協力には慎重にならざるを得ない事情があろう。
また、USスチールの日本製鉄による買収にバイデン米大統領が中止命令を出したことについて、米鉄鋼大手クリーブランド・クリフスのローレンコ・ゴンカルベス最高経営責任者(CEO)は「歓迎」を表明した上で、「日本は中国にダンピングや過剰生産の方法を教えた」と批判した。米国の対中強硬論の裏には日中経済・技術協力への批判が潜んでいる。
石破政権はトランプ次期政権とのパイプを構築するのに手間取っており、米国の政権交代による政策転換のリスクを抱えながら対中接近したところで、大胆な「戦略的互恵関係」は打ち出せるものではない。
チャイナリスクを懸念
劉建超・中央対外連絡部長は「中国は日本を協力のパートナーとみている」と表明したが、反スパイ法による日本人の拘束や、通り魔の横行による日本人児童殺害などのチャイナリスクが懸念されている。
在留邦人の安全の確保、さらに尖閣諸島周辺海域からの海警局公船の引き揚げ、軍用機による日本領空侵犯の再発防止などがなされなければ、中国は「協力のパートナー」たり得ない。