トップオピニオン社説東京女子医大 不正な支出の全容解明を 【社説】

東京女子医大 不正な支出の全容解明を 【社説】

東京女子医大の新校舎建設工事を巡り、アドバイザー報酬名目で計約1億1700万円を不正に支出したとして、警視庁が元理事長の岩本絹子容疑者を逮捕した。

岩本容疑者は東京女子医大の経営再建を期待されたが、ヒト、モノ、カネを一手に握り、大学を私物化した。大学に大きな損害を与え、信頼を失墜させた責任は重い。

容疑者が私的流用か

支出した金は岩本容疑者の主導で還流され、私的に流用された疑いがある。ほかにも不正な支出があるとみられており、全容解明が求められる。警視庁は昨年3月、岩本容疑者の側近だった元職員が同窓会組織「至誠会」から約2000万円の給与を不正に受け取った疑いがあるとして、岩本容疑者の自宅などを捜索していた。

東京女子医大では14年2月、大学病院で人工呼吸中の子供への使用が禁止されている鎮静剤「プロポフォール」を投与された2歳男児が死亡する事故が発生。事故を受け、病院は高度な医療を提供する「特定機能病院」の承認を取り消され、大学も厳しい経営状況に置かれた。

14年末に副理事長に就任した岩本容疑者は、赤字に陥っていた大学の黒字回復を果たすが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で再び赤字に転落。19年4月に理事長になった際には、幹部を自身に従う人物で固める一方、意に沿わない意見を持つ人物を徹底的に排除したという。

経営改革では、医療現場の実情に見合わない過剰な経費削減で大量の人材流出も招いた。21年7月に発足し、高度な技術による治療実績のあった小児集中治療室(PICU)も採算性を理由にわずか半年後に運用が停止された。さらに教職員の人件費を低く据え置く一方、側近には過大な報酬を支払い、自身の報酬も毎年増額させた。自身の権限や利益の拡大を優先し、大学への信頼回復や医療体制の充実を後回しにしていたと言わざるを得ない。

職員給与の不正支出問題を受けて大学が設置した第三者委員会は、昨年8月に公表した調査報告書で岩本容疑者を「金銭に対する強い執着心があった」と批判。子女枠の推薦入試では大学や至誠会への寄付額を点数化して加算していたという。

この結果、順位が入れ替わって一部の受験生が大学への推薦を得られないケースもあった。寄付額で受験生の将来を左右することは最低の行為だ。文部科学省は通知で入学に関する寄付の収受を禁止しており、第三者委はこれに反する可能性があると指摘している。

学生や教員の不安払拭を

岩本容疑者の逮捕を受け、東京女子医大の清水治理事長は「逮捕は遺憾で、深くおわび申し上げる」と謝罪。「元理事長の専横的な意思決定を牽制できなかった。ガバナンス不全が大きな問題だった」と述べた。

身勝手な振る舞いを許した理事会も責任は免れない。東京女子医大は昨年12月、「特定の役員の専横を許さない健全な法人運営体制を構築する」などとする改善計画を公表した。組織改革を進めて学生や教職員の不安を払拭しなければならない。

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