トップオピニオン社説首相東南ア訪問 日米は中国念頭に関与強化を 【社説】

首相東南ア訪問 日米は中国念頭に関与強化を 【社説】

石破茂首相が東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国のマレーシアとインドネシアを訪れた。東・南シナ海で覇権主義的な動きを強める中国を念頭に、両国をはじめASEANとの関係を深化させるべきだ。

安保連携の方針を確認

石破首相が国際会議の出席以外で外国を訪れるのは就任後初めてだ。マレーシアではアンワル首相と会談し、日本が同志国に防衛装備品などを無償供与する「政府安全保障能力強化支援(OSA)」、自衛隊とマレーシア軍による共同訓練、海上保安機関間の連携などの取り組みを進める方針を確認。インドネシアではプラボウォ大統領との会談で、OSAの枠組みを活用して海軍に高速警備艇を供与することで合意し、外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)を今年開催することでも一致した。

マレーシアは今年のASEAN議長国、インドネシアはASEAN最大の人口と経済規模を持つ中核国だ。巨額の経済協力によって中国の東南アジアへの影響力が増大する中、石破首相が両首脳との会談で「自由で開かれたインド太平洋」実現の重要性を確認した意義は大きい。首相は「不透明さを増す国際情勢の中にあって、東南アジアとの信頼関係を強化することは極めて重要だ」と述べた。

ただ中国と南シナ海で領有権争いを抱える両国だが、経済面では中国との結び付きも重視している。インドネシアは今月、中国やロシアなどで構成する新興国グループ「BRICS」に加盟。マレーシアも加入の意向を表明している。

米欧主導の世界秩序に対抗しようとするBRICSは、グローバルサウス(新興・途上国)の糾合を図っている。2023年8月の首脳会議で加盟国拡大を承認し、24年10月には「パートナー国」の制度創設も決定した。マレーシア、インドネシアは共に「全方位外交」を掲げているが、中国への傾斜を強めることが懸念される。

鍵を握るのは米国の動きだ。今月20日に就任するトランプ次期米大統領は、第1次政権時にASEAN関連の首脳会議を4年連続で欠席。この間に中国がASEAN諸国への外交攻勢を強めた経緯がある。いかに米国を東南アジアに関与させるかが大きな課題だと言える。

中国が南シナ海の領有権を強硬に主張するのは、米本土を射程に入れる潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)搭載の戦略原子力潜水艦を配備するためでもある。石破首相は2月にもトランプ氏と会談することを目指している。首相はトランプ氏に東南アジアへの関与強化が日米両国の国益にも資することを伝えなければならない。

 「法の支配」浸透させよ

16年7月にはオランダ・ハーグの仲裁裁判所が南シナ海での中国の領有権主張を退ける判決を下したが、中国は判決を「紙くず」と切り捨て、南シナ海の軍事拠点化を進めてきた。

今回の首脳会談では「法の支配」に基づく国際秩序の維持・強化の重要性も確認された。インド太平洋地域の安定に向け、法の支配の価値観を粘り強く浸透させていく取り組みも求められよう。

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