台湾の海巡署(海上保安庁)は、北部海域で香港の貨物船が国際海底ケーブルを破壊した疑いがあるため、捜査を始めたと発表した。バルト海でも昨年、ロシアや中国が関与したとみられる海底ケーブルの損傷があった。海底ケーブルは国際的な情報通信のために極めて重要なインフラであり、日本も有事に備えた対策を急ぐ必要がある。
台湾沖やバルト海で切断
台湾沖で海底ケーブルを破壊した疑いのある船はカメルーン船籍で船主は香港籍。船員7人は全員中国人だった。いかりを下ろしたまま航行し、ケーブルを切断したとみられている。韓国の釜山港に向かったため、海巡署は韓国当局に捜査協力を要請した。一刻も早い全容解明が求められる。
台湾では2023年2月にも近海の海底ケーブルが相次いで損傷し、通信障害が発生した。この時も中国の船舶が関与しているとの見方が報じられ、有事の際に通信を遮断される恐れが指摘されている。中国による侵攻で在日米軍などと連絡が取れなくなれば、防衛作戦にも支障を来しかねない。
またバルト海では昨年11月、スウェーデンとリトアニア、フィンランドとドイツをそれぞれつなぐ海底ケーブルが相次いで断線した。ロシアから出港した中国船が、いかりを下ろして航行し、意図的に損傷させたとみられている。ロシアに侵略されたウクライナへの支援を後退させるため、ロシアのプーチン政権が仕掛ける軍事的威圧と非軍事的な工作を組み合わせた「ハイブリッド戦争」の一環との見方が強い。
台湾近海やバルト海のケースは、日本にとっても決して人ごとではない。大容量の光海底ケーブルが登場したことで、現在では国際電話や映像、インターネットなど日本の国際通信の99%は海底ケーブルを経由している。台湾有事は日本有事であり、海底ケーブルが破壊されれば、社会生活や経済だけでなく安全保障にも甚大な影響を及ぼす恐れがある。
日本では海保などが海底ケーブルを守るとされている。しかし海外諸国では、海軍が海底ケーブル防護のための演習を行っている。海上自衛隊と海保の連携を図り、有事に備えなければならない。
海底ケーブルが破壊された場合の代替手段を確保することも重要だ。北大西洋条約機構(NATO)はデジタル技術によって高精度でケーブルの損傷を検知するとともに、すぐに衛星通信に切り替えられる革新的なシステムの構築を目指している。
ルートの多様化進めよ
中国の脅威が高まる中、リスクを回避するため、北極海経由の海底ケーブルを敷設する計画も現実味を帯びている。実現すれば、日本と欧州間の通信速度が約30%上がり、映像中継や金融取引などの遅延縮小につながるという。海底ケーブルを陸に引き上げる陸揚げ局の立地自治体には、デジタル関連産業の集積も見込まれる。
世界中に張り巡らされた海底ケーブルは、多くが太平洋や大西洋に集中しており、テロの標的となる恐れもある。ルートの多様化を進めるべきだ。