トップオピニオン社説USスチール 日鉄買収の政治的翻弄は遺憾 【社説】

USスチール 日鉄買収の政治的翻弄は遺憾 【社説】

バイデン米大統領が、日本製鉄とUSスチールが合意した日鉄によるUSスチール買収の中止を命じたことを受け、日鉄側は「違法な政治的介入」だと反発し、同大統領らを提訴した。いずれも異例の事態だが、米側が大統領任期切れ間際のバイデン氏に嫌な役を負わせて逃げを図るような後味の悪さであり、日米関係に不安を残す。

米大統領が中止命令

提訴に当たり日鉄は、「本買収プロセスの当初から、日本製鉄とUSスチールは、全ての関係者と誠実に向き合い、本買収が米国の国家安全保障を脅かすものではなく、むしろ強化するものであることを強調してきた」と主張し、米国の鉄鋼供給網の強靭(きょうじん)化、中国鉄鋼業への対抗に向けた米国鉄鋼業の強化をもたらすと改めて訴えた。

バイデン氏が中止命令の理由として挙げた、米国内のインフラ、自動車産業、防衛産業基盤を支えるための強靭な鉄鋼供給網を確保することは安全保障上の最優先事項とする内容と矛盾しない。ほぼ同じ主張でありながら立場を分かち隔てるものは、USスチールが日本企業になるか米国の企業のままかの一点と言って過言ではない。

その意味で、「違法な政治的介入」と不快感をあらわにした日鉄の橋本英二会長兼最高経営責任者(CEO)の指摘は的を射ていると言えるものだ。企業同士の合意事項が順調に進むビジネス環境が、長年の同盟関係にある日米の間で整わなかった現実は悲しむべき出来事だ。

だが、その問題点はビジネスというよりも政治にあるだけに、非常に厄介でもある。2023年12月に日鉄のUSスチール買収について両社間で合意されたが、米国では24年大統領選が予備選レースに入っていた。買収計画について判断を下す対米外国投資委員会(CFIUS)の審査は大統領選と併行した。

USスチールはトランプ次期米大統領の1期目当選でも注目されたラストベルト(さび付いた工業地帯)の一角ペンシルベニア州を本拠地とし、全米鉄鋼労組(USW)が買収に反対を表明した。バイデン氏は大統領候補であった昨年3月、接戦州であるペンシルベニア州を念頭に買収に反対を表明している。民主党政権としても労組票を大いに意識したものだろう。

日鉄はUSスチールの社名を残す、労働協定を順守する――など米側に極力配慮する約束をしたが、トランプ氏もまた選挙中から買収に反対して高関税による保護政策を前面に打ち出し、労働者の支持を得てペンシルベニアも制した。

結局CFIUSは判断をバイデン氏に任せてしまったが、買収案件を許容できないほどにバイデン政権が弱体化していたこと、およびトランプ氏復権は、日鉄にとって不運な巡り合わせだった。

日米の環境好転待ちたい

一方日本側も、自民、公明両党の連立政権の支持率が低迷し、不安定化した。石破政権は少数与党となり、米政府を説得するにはパワー不足だ。政治に翻弄(ほんろう)されながらも日鉄の「諦めない」を長期的視点でサポートできるように、日米とも政治環境の好転を待ちたい。

spot_img

人気記事

新着記事

TOP記事(全期間)

Google Translate »