トップオピニオン社説混迷の韓国政治 尹氏弾劾なら日韓関係に影も 【社説】

混迷の韓国政治 尹氏弾劾なら日韓関係に影も 【社説】

韓国の政治情勢が激しく揺れている。昨年末の「非常戒厳」宣言と、それに対する国会の弾劾訴追案可決で、尹錫悦大統領は一挙に弾劾の危機に追い込まれた。仮に尹氏が罷免された場合、ようやく改善された日韓関係の先行きが不透明になる。憂慮すべき事態だ。

改善の功労は大きい

訴追案可決を受けて韓国の憲法裁判所は、来週にも弾劾の可否を巡る審理を開始する。これとは別に捜査当局は尹氏を「内乱の首謀」とみなし、「拘束令状」が下りやすい地裁に請求し、発付された令状を手に拘束を試みるなど、まるで野党・司法が結託し一気呵成(かせい)に尹氏を追い詰めているかのようだ。

戒厳令からわずか1カ月の間に尹氏は窮地に立たされた。もちろん尹氏自身が特大級とも言える墓穴を掘ったのが最大の原因だが、その後の推移は弾劾を以前から目標にしていた野党や市民団体など左派陣営の攻勢なしにはあり得ない。

さらに尹氏追い込みを早めているのは、左派系の最大野党・共に民主党の李在明代表が自身を巡る各種疑惑の裁判で確定判決が下される前に大統領選を行いたいためだろう。仮に憲法裁で弾劾が支持された場合、60日以内に選挙が実施されるという日程をにらんでのことだ。

尹氏は就任直後から日韓関係改善に乗り出した。最大の懸案だった徴用工問題では、韓国の大法院判決を理由に日本企業への賠償金支払い請求を黙認した文在寅前政権の方針を覆し、政府機関による第三者弁済という解決案を新たに示して事態を収拾させていった。

日本とのシャトル外交復活にもこぎつけ、安全保障を中心とした日韓協力も前進させた。地域の脅威となっている中国の覇権主義、北朝鮮の核・ミサイルによる挑発などに毅然(きぜん)と臨む姿勢は、日本に安心感を与えた。

尹氏は日韓改善の功労が大きかっただけに、国内政治に足を引っ張られる現状が残念だ。

米国との同盟関係にも不安がよぎる。今月20日に新大統領に就任するトランプ氏は、防衛費分担金の増額要求など韓国側に難題を突き付ける可能性がある。今の状況ではその備えが十分できない恐れがある。

トランプ氏は韓国の頭越しに再び北朝鮮の金正恩総書記と首脳会談する可能性もある。北朝鮮の完全非核化が棚上げされたままの米朝融和演出は、日本にとっても悪いシナリオだ。

仮に尹氏が弾劾・罷免された場合、日本は次期大統領選で当選する新たな指導者と向き合うことになる。次期候補で最有力視される李氏は、過去の言動から反日路線を敷く可能性がある。李氏はこの混乱の最中、水嶋光一駐韓大使と会談し、「日本への深い愛情」を口にしたが、李氏の思想信条や安保観から考え、鵜呑(うの)みにはできまい。

国交60年で成熟を期待

日韓は今年、国交正常化から60周年という大きな節目を迎える。民主主義と市場経済という共通の価値観に立脚した“還暦”に相応しい成熟した関係を期待したい。日本としては韓国政治情勢の混迷に振り回されず、一貫して「あるべき関係」を構築すべきだ。

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