三菱UFJ銀行の貸金庫に預けられていた顧客資産十数億円相当が盗まれた。
前代未聞の不祥事であり、金融機関に対する信頼を大きく揺るがす事態だ。
スペアの鍵を不正使用
窃盗は都内の練馬、玉川の2支店で発生。2020年4月から24年10月にかけて貸金庫を管理していた元行員の40代女性が、貸金庫から顧客約60人の資産を盗み出していた。元行員は既に懲戒解雇されているが、盗んだ資産は投資などに流用したというから唖然(あぜん)とさせられる。
貸金庫を開けるには、支店が保管する鍵と顧客が持つ鍵の2本が必要だ。元行員は、支店にある顧客の鍵のスペアと支店保管の鍵を不正に使って解錠し、資産を盗んでいた。貸金庫業務の責任者だった元行員は、IDカードで貸金庫室に出入りし、スペアを取り出すこともできたという。スペアについては、子会社が半年に1度、鍵の個数や保管状態などを確認するだけだった。これでは窃盗を防げないのは当然だ。
入室記録や防犯カメラ映像などもあったが、同僚らは元行員の不正を見抜けなかった。窃盗が発覚したのは、10月末に現金が減っていたことに気付いた顧客からの問い合わせがあったからだ。管理に甘さがあったと言わざるを得ない。
三菱UFJ銀の半沢淳一頭取は記者会見で「信頼、信用という銀行ビジネスの根幹を揺るがすもの」と強調し、「お客さまや関係者の皆さまに心よりおわびする」と謝罪した。顧客が銀行を信頼して貸金庫に預けていた資産が盗まれたことは、極めて深刻な事態だと受け止めなければならない。しかし窃盗発覚から記者会見まで1カ月半もかかったのは、危機感が不足していると受け取られても仕方があるまい。
三菱UFJ銀は窃盗発覚後、2支店で貸金庫を契約している顧客に対し、来店して内容物を確認するよう要請した。その中で新たに数十人の顧客が被害に遭った恐れがあるという。まずは顧客の救済に全力を挙げる必要がある。
再発防止策としては、スペアの鍵を来年1月中に本部に集約して管理することを表明。複数の行員がいなければ解錠できないようにシステムを更新する。ただ今回の件を機に、貸金庫の必要性が問われていることも忘れるべきではない。
行員は責任の重さ自覚を
貸金庫を巡っては、脱税などの温床になる恐れが指摘されている。三菱UFJ銀では年1万5000~3万円ほどの料金で約13万人に貸しているが、管理負担の大きさの割に収益性が低い業務でもあるという。顧客が遺産相続などを受けて契約をやめるケースも多く、三菱UFJ銀では過去5年間で利用する顧客が約3割減少した。貸金庫業務の見直しも含めた不正対策が求められよう。
重要なのは、顧客の財産を預かる責任の重さを行員一人一人が強く自覚することだ。
野村証券では、元社員が顧客に対する強盗殺人未遂罪で起訴されるなど金融業界全体で不祥事が続発している。顧客最優先の原点に立ち返るべきだ。