政府の犯罪対策閣僚会議は闇バイトによる強盗事件が相次いでいることを受け、捜査員が架空の身分証を使って闇バイトに応募する「仮装身分捜査」を早期に実施するなどの緊急対策をまとめた。犯罪グループに捜査員が交じるようになれば、犯行を抑止する効果も期待できる。闇バイトの根絶につなげたい。
架空の運転免許証を用意
仮装身分捜査では、架空の人物の運転免許証を用意して闇バイトに応募。指示役から集合場所を聞き出し、集まった実行役を強盗予備罪などで検挙したり職務質問したりすることを想定している。
捜査員が身分を秘匿する捜査は薬物、銃器犯罪などで一定の条件の下で行われてきた。ただ闇バイトの場合、指示役は応募者に身分証の画像送信を求めるため、仮装身分捜査の必要性が高まった。警察庁は2010~12年の研究会でこの捜査の効果を調査したが、実施には身分証の偽造が伴うことから導入は見送られてきた。
ただ警察庁によると、15日時点で東京、千葉、神奈川、埼玉の4都県では8月末以降、闇バイトによる強盗事件が19件発生するなど治安の悪化が顕著になってきた。これを受け、警察庁は「法令又は正当な業務による行為は、罰しない」という刑法35条を根拠に実施可能と判断。捜査員の身の安全をどう守るかなどの課題は残るが、仮装身分捜査が定着すれば一定の抑止効果を期待できる。
一方、指示役側は秘匿性の高い海外の通信アプリ「シグナル」などを使って指示する傾向にある。シグナルは解析が難しく、仮装身分捜査でも指示役の特定につながるとは限らない。
闇バイトによる強盗事件は、SNSなどで実行役を募り、互いの素性を知らずに離合集散を繰り返す匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)によって行われている。実行役を逮捕しても指示役を検挙できなければ、新たな実行役による犯行が続いてしまう。緊急対策ではアプリの事業者などに日本法人窓口を設置するよう促すことも検討する。仮装身分捜査と合わせて指示役特定の手段を確立したい。
このほか緊急対策には、募集者の氏名や業務内容などの記載がない求人情報を違法と明確化し、SNS事業者に削除を求めることも盛り込んだ。闇バイト募集のSNSへの投稿は「ホワイト案件」「即日即金」などをうたい、即座に違法性を判断することが難しい。このため求人情報には、募集者の氏名や住所、業務内容などの表示が義務付けられていることを周知徹底し、ガイドラインを定めるとした。官民挙げて闇バイトの根絶を目指す必要がある。
被害者も加害者も減らせ
高額報酬を期待して闇バイトに応募しても、犯罪行為に加担させられ、使い捨ての駒にされるだけだ。指示を拒否しようとすると「家族に危害を加える」などと脅し、犯罪に引き込む手口が横行している。
警察庁によると、闇バイトへの応募者らを保護した事例が11月末までに全国で125件に上った。闇バイトによる強盗事件の被害者だけでなく加害者も減らさなければならない。