自動車生産の回復や堅調な設備投資を受け、大企業製造業の景況感が小幅ながら改善したことが、日銀が公表した12月の全国企業短期経済観測調査(短観)で明らかになった。ただ、大企業非製造業は景況感が悪化した。先行きについては、規模や業種を問わず企業心理が悪化して警戒感が強まっている。日銀は利上げを急がず、慎重な政策運営に努めてもらいたい。
物価高に海外需要減速
大企業製造業の景況感改善は2四半期ぶり。台風や認証不正問題に伴う供給制約が緩和して自動車関連の生産が回復、足元の景況感改善に寄与した。
今年度の計画が16・0%と堅調な設備投資も下支えした。しかし、中国を中心とした海外経済の減速で鉄鋼などの輸出が伸び悩んだため、改善は小幅にとどまった。
大企業非製造業は、価格転嫁が進んでいるものの、人手不足や人件費、エネルギー価格の高騰が重しとなり、景況感は2期ぶりに小幅悪化した。残暑が長引き秋冬物衣料などの売り上げが伸びなかった小売業の心理悪化も目立った。
人件費高騰につながる人手不足は、特に中小企業非製造業で深刻で、「過剰」と答えた企業の割合から「不足」を引いた割合である雇用人員判断指数(DI)がマイナス48と過去最低。インバウンド(訪日客)消費は堅調なものの、需要取りこぼしの憂き目に遭っている。
今年度の大企業全産業の設備投資計画が前年度比11・3%増と高水準なのは朗報だが、懸念されるのは先行きの景況感悪化である。先行きの業況判断DI(「良い」と答えた企業の割合から「悪い」を引いた割合)は、大企業製造業で1ポイント、同非製造業5ポイント、中小企業製造業1ポイント、同非製造業8ポイントの悪化を見込む。規模や業種を問わず、企業心理が悪化し、企業は先行き警戒感を強めているのである。
悪化の理由は、長引く原材料高と人件費の高騰、また海外需要の減速やトランプ次期米大統領が主張する関税引き上げによる世界経済の先行き不透明感である。
日本経済は緩やかな成長を続けるが、企業倒産が11年ぶりの年間1万件超えになりそうな状況にある。東京商工リサーチによると、11月の企業倒産件数は「物価高」関連倒産をはじめ841件、今年1月からの累計では9164件と既に前年を上回る。同リサーチは「あらゆるコスト上昇が企業を直撃しており、負担増を吸収しきれず破綻する企業が増えていく」と分析、先行きを懸念する。
政府は景気の下支えを
能登支援に加え、物価高への対策としてガソリン補助や電気・ガス代支援などを盛り込んだ一般会計歳出総額13兆9433億円の今年度補正予算が成立した。物価高対策には物足りなさもあるが、好循環の実現に向けて景気をしっかりと下支えしてほしい。
日銀はきょうから2日間の日程で金融政策決定会合を開く。利上げが検討課題だが、企業の先行き景況感悪化を受け、利上げは急がず、慎重な政策運営を望みたい。