ノルウェーのオスロでノーベル平和賞の授賞式が行われ、日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)に授与された。被爆体験の伝承などを通じて68年間にわたり核兵器廃絶への活動を続けてきたことが評価されての受賞である。国際情勢が厳しさを増す中、被団協の平和賞受賞は、核廃絶を目指す草の根の運動を力付けるものとなろう。
恐怖語った被団協代表
被団協の田中熙巳(てるみ)代表委員は10月の受賞発表の際、「核兵器の実態はあまり多くの人に知られておらず、受賞をきっかけに世界中の人に核兵器の脅威に注目してもらいたい」と述べていた。今般、授賞式での演説で田中氏は、自らの被爆体験も含め、核兵器の想像を絶する恐ろしさや被爆者の置かれた厳しい環境を切々と語った。
これに参列者がスタンディングオベーションで応え、拍手は1分半にわたり続いた。田中氏のスピーチが感動を与え、核廃絶の世界世論形成に大きな影響を与えたと言える。
「今日、依然として1万2000発の核弾頭が存在し、4000発が即座に発射可能に配備されている」と田中氏が演説で語ったように、核のリスクは低下するどころか高まっている。
核保有国の中でも、特に中国の核増強が顕著だ。北朝鮮は7回目の核実験実施のタイミングを窺(うかが)い、戦術核兵器の開発も急ピッチで進めている。ウクライナに侵略して以降、ロシアのプーチン大統領は、何度も核兵器使用の脅しを繰り返している。
だが恫喝(どうかつ)を重ねながらも、プーチン氏は核兵器の使用に踏み切らなかった。それは核兵器を使った際の恐ろしさを知っているからだ。核保有国の指導者が使用を躊躇(ちゅうちょ)するのは、広島、長崎の惨状を被団協が語り続けてきたからにほかならない。
核戦争を思い留(とど)まらせる大きな役割を担ってきた被団協の存在は、今日の世界においてますます重要になっている。
田中氏はまた「核兵器の保有と使用を前提とする核抑止論ではなく、核兵器は一発たりとも持ってはいけない」というのが被爆者の願いだと語った。
壮絶な体験を持つ被爆者の声には重みがある。ただ政策論として考えた場合、核廃絶の理想は掲げつつも、現実に核兵器が存在し、今後も存在し続ける以上、健全な核抑止力を維持し国家の安全を確保する努力を否定することはできない。
また核兵器の増加や拡散が進めば、偶発的に使用される危険も高まる。それを防ぐには核軍縮だけでなく、核抑止の安定を図る軍備管理交渉も重要だ。安定した核抑止力を維持することが、政治指導者に求められる。
被爆体験の継承が課題
受賞演説をした田中氏は92歳。今後、被爆体験を持つ人が核兵器の悲惨さを世界に向け訴え続けていくことは難しくなろう。厚生労働省によれば、被爆者健康手帳を持つ被爆者の平均年齢は85歳。高齢化の影響で被団協の地方組織が解散に追い込まれているという。
被爆体験を次の世代にどう継承していくか、世界で唯一の被爆国である日本が考えねばならない大きな課題である。