政府は、認知症の人が暮らしやすい社会を目指す「認知症施策推進基本計画」を閣議決定した。認知症になっても希望を持って自分らしく暮らし続けることができるという「新しい認知症観」に立って、国や地方公共団体が連携して施策に取り組む。2040年には高齢者の約15%が認知症になるとの推計もあり、認知症の人の尊厳が守られる社会環境が求められる。
誤解はまだ解消されず
基本計画の前文は、「誰もが認知症になり得る」と述べている。厚生労働省が今年5月に公表した推計によると、40年には認知症の高齢者が584万2000人に上る。認知症の前段階である軽度認知障害(MCI)の人も612万8000人と推計され、高齢者の3・3人に1人が認知症またはMCIになる見込みだという。
認知症の人は年々増加しており、身近な人が認知症になったという人も当然増えているはずだ。しかし、「認知症になると何もできなくなる」といった誤解はまだ解消されていない。認知症の診断を受けた人が希望を失ってふさぎ込んでしまったり、家族が必要以上に心配して当事者の行動を制限したり、実際にはできることをやらせてもらえなかったりするといった問題もある。
また、高齢者の1人暮らしの割合も急増しており、家族からのサポートを得ることが難しい状況も増えると予想される。介護現場の人手不足も深刻だ。社会全体の理解を促進し、多くの人が認知症とうまく付き合っていける環境をつくることは急務になる。
近年は認知症薬の研究も進んでいる。先月には、米製薬大手が開発したアルツハイマー病の治療薬「ドナネマブ」への公的医療保険適用が承認された。アルツハイマー病の発症に関係するとされる、脳内に蓄積した特定のタンパク質を除去することで症状の進行を遅らせる効果がある。同様の薬としては、昨年12月に保険適用された製薬大手エーザイなどの「レカネマブ」に続き2例目だ。
アルツハイマー病は認知症の中で最も割合が高い。ただ、治療薬は対象が初期段階の人に限定され、一度低下した認知機能を元に戻す効果はない。多様な症状への理解を広げサポート体制を整えるため、国は具体的な取り組みの例を示すべきだ。
認知症の行方不明者も増加している。家族や知人だけで探すことは難しく、中には県境を越えて見つかった例もある。自治体と警察や地域住民との連携はもちろん、都道府県間の情報共有の仕組みも整備する必要がある。認知症への誤解が残る現状から、認知症を公表することに躊躇(ちゅうちょ)して地域のネットワークへの登録が進まないことがあるのも深刻な課題だ。
「若年性」への理解向上も
認知症になるのは高齢者だけではない。65歳未満で発症する「若年性認知症」の人もいる。多くは現役世代で、治療と仕事との両立が必要になる場合は職場の理解が不可欠だ。若年性の場合、高齢者よりも症状の進行スピードが速く、早期の発見が重要になる。理解向上に向けた一層の取り組みが求められる。