ルーマニア大統領選挙の第1回の投票で泡沫(ほうまつ)候補だった親露派候補が得票率トップに立ったことを受け、憲法裁判所は機密解除された情報に基づいて外部工作を含め不正にネットを用いた選挙運動の問題などを指摘し、全ての選挙プロセスを無効にする決定をした。ロシアの介入が指摘されており、サイバー戦争の一環とみるべきである。
支持率1%未満でトップ
ルーマニアはウクライナ、モルドバの旧ソ連2カ国に隣接し、ロシアから軍事侵攻されているウクライナを支援する欧米諸国の中ではポーランドなどと共に前線に位置する。2004年に北大西洋条約機構(NATO)、07年に欧州連合(EU)に加盟している。
大統領選は11月24日に行われたが、世論調査で支持率1%にも満たなかった親露派で無所属の極右候補、カリン・ジョルジェスク氏が得票率22・94%、中道右派のルーマニア救国同盟候補のエレナ・ラスコニ党首が19・18%で上位2位を占め、決選に進んだ。
しかし、不自然な結果に再集計や無効を訴える各党の提訴が続出し、憲法裁は中央選挙管理委員会に再集計を行うことを要求。中央選管は再集計の結果を憲法裁に提出し、2日に憲法裁は投票結果を有効と判定した。
このため、大統領選は予定通り決選を行うことになったが、急遽(きゅうきょ)4日になってヨハニス大統領が機密解除したルーマニア当局の情報から、ジョルジェスク氏の選挙運動で中国系短編動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」を不正利用した疑い、選挙資金の虚偽申告、さらにはサイバー攻撃などロシアの介入が指摘された。
機密情報の解除から不正選挙の可能性が濃厚となり、投票日を2日後に控えた6日になって憲法裁は全選挙プロセスの無効を宣言した。ヨハニス大統領は国民向けに演説し、外部工作を受けた選挙運動が確認されたことは安全保障上の問題として対応を関係機関で協議していたことを明らかにした。
ジョルジェスク氏はNATO懐疑派でプーチン露大統領を称賛した発言などで物議を醸していた。大統領選中の11月になると外国で16年に作成された800件ものTikTokアカウントが同氏を支持する情報の拡散を始めたとされ、第1回投票の2週間前には約2万5000件のアカウントを利用した大規模な選挙運動を展開した。
また、ジョルジェスク氏は選挙資金はゼロと申告したが、TikTokで支持の求めを拡散したインフルエンサーに計38万1000㌦(約5700万円)が支払われていたという。
さらに選挙管理システムへの8万5000件以上のサイバー攻撃も確認され、ロシアの介入が指摘されている。NATO加盟国の民意を分断する情報操作はサイバー戦争の一環であり、選挙運動でのネット活用が「敵対国」に悪用されることは防がなければならない。
ネット時代も公正確保を
民主主義国に対して選挙を国外から操作することは、安全保障に関わる主権侵害だ。国境を越えるネット時代に、公正な選挙を追求する対策が必要だ。