トップオピニオン社説ノートルダム大聖堂 「人類共通の財産」復活を喜ぶ【社説】

ノートルダム大聖堂 「人類共通の財産」復活を喜ぶ【社説】

2019年に大規模火災が起きたフランス・パリのノートルダム大聖堂が蘇(よみがえ)った。5年8カ月の修復工事を経て再開された「人類共通の財産」の復活を喜びたい。

世界に衝撃与えた火災

再開を祝う式典には、マクロン大統領のほかトランプ次期米大統領、ウィリアム英皇太子、ウクライナのゼレンスキー大統領らが参加。再開後初のミサも執り行われた。

大聖堂は12世紀に建設が始まり、100年近くをかけて完成したフランスを代表するゴシック様式の寺院。パリ司教座聖堂として国民の心のよりどころとなってきた。エッフェル塔と並ぶパリの顔であり、世界遺産「パリのセーヌ河岸」の構成資産だ。

フランス革命期には革命派によって破壊され荒廃するが、19世紀に入り、文豪ヴィクトル・ユーゴーが『ノートルダム・ド・パリ』を書き、大聖堂復興運動を盛り上げた。今回はその時に次ぐ復活となった。

19年4月15日に出火した火災では、中央の尖塔(せんとう)やその周囲の屋根が焼け落ちた。大聖堂が炎に包まれる様子は、パリ市民だけでなく、世界の人々に大きな衝撃を与えた。ローマ教皇庁は「フランシスコ教皇はフランスに寄り添い、カトリック教徒およびパリ市民のために祈っている」との声明を発表した。

幸い聖遺物や「ピエタ像」、「バラ窓」などのステンドグラス、パイプオルガンは無事だった。しかし、火災のダメージで焼け残った建物が倒壊する危険があった。屋根に葺(ふ)かれていた鉛が焼け落ち、有毒な成分が瓦礫(がれき)や聖堂の壁、柱に付着した。

本格的な修復に取り掛かるには、さまざまな課題があった。天井の高いゴシック様式の屋根や壁を側面から支えるフライングバットレス(飛梁=とびはり=)を木枠で支えるなど、それらを一つ一つ解決していった。困難な修復工事には5年間で建築業者や大工、内装職人ら約2000人が参加した。

火災発生直後、マクロン氏は「われわれは大聖堂をさらに美しく再建する。今後5年以内に完成させたい」と語った。フランスは政教分離を国是とするが、ノートルダム大聖堂の建物は国が保有している。マクロン氏の頭にあったと思われるパリ五輪には間に合わなかったが、同じ年に再開を成し遂げた工事関係者の努力を称(たた)えたい。

大聖堂の火災は悲劇だったが、マイナスのことばかりではなかった。煤(すす)が付着するくらいで被害は免れたステンドグラスは、創建以来初めて取り外されクリーニングされた。また屋根を支える木組みも中世の木工技術で再建するなど、伝統的な技術の継承の機会にもなった。

他宗教の支援の意義大

しかし何より世界の人々が、フランス国民が心のよりどころとする建物の火災被害に対し、宗教は異なったとしても深い同情を寄せることになった意義は大きい。

約7億ユーロ(約1100億円)の工費は世界各地からの寄付で賄った。その中にはカトリック教徒以外も含まれている。信ずる宗教は違っても、信ずる心の尊さを人々は共有していることを示すものとなった。

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