トップオピニオン社説国際学力調査 専門性と魅力ある教師育成を【社説】

国際学力調査 専門性と魅力ある教師育成を【社説】

国際教育到達度評価学会(IEA)は58カ国・地域の小学4年と中学2年を対象に2023年に行われた国際数学・理科教育動向調査(TIMSS)の結果を公表した。4年に1度、主に基礎的な学力を測る調査だ。日本は小中とも理科で前回より平均点が低下したものの、文部科学省は算数・数学を含め、「高い水準を維持した」としている。小中、いずれの教科もトップはシンガポールだった。参考にすべきだ。

一喜一憂することはない

成績が上がった、下がったと一喜一憂する必要はない。これから、どういった教育を施していくのか、次期学習指導要領に生かしていくのか、貴重なデータが盛り込まれている。この調査で順位や得点以上に課題になってきたのが、日本の児童・生徒の学習意欲の低さだ。

文科省は理科の平均点低下について、小4は砂漠の生き物に関する出題があったことなどを挙げて「日本の児童になじみのない問題が一定数あったことが影響した」と分析。中2は「国際スコアが低下している」と指摘し、いずれも「問題視する必要はない」としている。

ギガスクール構想に向かっている日本の教育現場とICT(情報通信技術)端末を使いこなしているシンガポールの差は大きい。新型コロナウイルスの感染拡大で世界的にロックダウン(都市封鎖)、一斉休校が広がった時、日本は教育現場が完全に止まってしまい、次善の策として先生が家庭学習用にプリントを作成し配った。一方のシンガポールは緊急事態を考慮して年に数回オンライン学習の日を設け、教育省が用意した学習プラットフォームに基づいて学習する訓練を行っており、コロナ禍は妨げにならなかった。

日本の小学校では、ほぼ全教科を担任が授業しているが、中学校は全教科とも専門教員が行う。ギャップに悩む子供への対応に、小学校高学年から教科担任制を敷く方向になっている。

シンガポールでは教員の養成段階から専門教科を3教科に絞り、学校現場でも教材研究やチームでの授業改善の時間を設けている。また、習熟度別、能力別の学習システムになっており、小学5、6年になると各教科で習熟度別にクラス分けされ、卒業時に小学校卒業試験を受ける。その後、中学では能力別のクラス分けで異なるカリキュラム、教科書で学ぶことになる。

在っていい学びの多様性

日本の教師の就労環境は主体的・対話的で深い学び、小学校での英語の教科化、ICT機器の導入などが相まって過労死レベルにある。就労環境や教育システム自体が異なっているので、シンガポールのやり方を単純に受け入れれば事足りるというものではない。また、ICT機器を用いた学習に完全に切り替えてしまうこともどうかと思う。個々の児童・生徒に合った学びの多様性が在っていい。先生との相性も善し悪(あ)しがある。自分を認めてくれる先生の一言でその教科が好きになったり、生涯の学習目標になったりするケースもある。先生の生き方に共感して教職の道に踏み出すこともある。専門性と魅力のある教師を育てることも急務だ。

spot_img

人気記事

新着記事

TOP記事(全期間)

Google Translate »