日本の伝統的な酒造りの文化的な価値が世界で認められた。海外でも人気が高まる日本酒や焼酎の世界的な普及の弾みとしたい。
「平和と社会結束に貢献」
国連教育科学文化機関(ユネスコ)の政府間委員会は日本酒や焼酎などの「伝統的酒造り」を無形文化遺産に登録した。日本の登録は2022年の「風流踊(ふりゅうおどり)」以来で、23件目となる。
日本の伝統的酒造りは、カビの一種であるこうじ菌を米や麦に繁殖させた「こうじ」で発酵を促すのが特徴。その技術と伝統は、酒造りの総責任者である杜氏(とうじ)や、こうじ造りなどに携わる蔵人(くらびと)と呼ばれる職人が継承し、それぞれの経験に基づいて洗練させてきた。
重要な原料となる水をはじめ各地の自然や風土に応じて、さまざまな酒を生み出したのも大きな特徴だ。さらに儀式や祭礼行事などでも不可欠な役割を果たし、日本の文化・伝統に深く根を下ろしてきた。政府間委員会は「食料安全保障、環境の持続可能性、持続可能な消費と生産、平和と社会的結束に貢献する」と評価した。
ただ酒造りの現場では、杜氏や蔵人の後継者の不足に悩んでいる。また海外での日本酒の人気が高まっている一方で、国内での需要は縮小している。
国税庁によると、国内の清酒の販売数量は1989年度の135万㌔㍑から2022年度は3分の1以下の40万㌔㍑にまで減少している。国内での日本酒の消費の落ち込みは、消費者の嗜好(しこう)の多様化、日本食中心から洋食やアジア系料理など食生活の変化を背景に避けられない面がある。
そういう面で日本の酒造産業にとって、海外販路の拡大が死活的に重要になっている。幸い海外では日本食ブームが続いている。これに乗って日本の酒も消費拡大が期待される。日本酒そのものの魅力を知らない人も多い。無形文化遺産登録を機に、日本酒の魅力を世界に強く発信していきたい。
海外での消費拡大は若い人たちにも魅力となる。若い職人たちを呼び寄せ育てれば、後継者不足解消にもつながるはずだ。
日本の酒造りを世界にアピールする一環として、酒蔵で酒造りを体験し試飲を楽しんだりする「酒蔵ツーリズム」なども行われている。ツアーの受け入れ体制が整っているのは全国約1500の酒蔵の1割程度だが、早く体制を拡充しツアー客の倍増を図りたい。
能登の復興後押しを期待
日本の酒が海外での消費を拡大させるためには、外国の料理と合う商品の開発も重要だ。洋食を中心に既にそのような試みも行われているが、将来的にはさらに幅を広げていくことも必要になるのではないか。
石川県の能登地方は酒造りの盛んな土地で、日本四大杜氏の一つ能登杜氏は日本各地で酒造りに携わっている。ただ今年の元日に大地震に見舞われ、多くの酒蔵が酒造りの中断を余儀なくされており、奥能登では11の酒蔵のうち再開したのは二つにとどまっている。
無形文化遺産登録が、能登の復興を後押しすることを期待したい。