トップオピニオン社説韓国「非常戒厳」 あまりにも大きい悪手の代償 【社説】

韓国「非常戒厳」 あまりにも大きい悪手の代償 【社説】

韓国の尹錫悦大統領による「非常戒厳」はわずか6時間で終わった。これに対して非難が高まっており、野党は退陣を要求し、弾劾案を提出する一方、全員の閣僚が辞意を伝え、韓国政治は一気に流動化し混乱している。「従北勢力を一掃し自由憲政秩序を守るため」という理由だったが、韓国の保守系メディアですら「野党『共に民主党』が暴走しているからと言って(戒厳発令は)度を越した措置」などと非難一色だ。

野党の挑発に乗った尹氏

戒厳発令の背景には政府与党と野党との激しいせめぎ合いがあった。共に民主党の李在明代表は複数の裁判で被告となり、一部では有罪判決を受けている。次期大統領選への出馬が危ぶまれる状況で、閣僚や検察の弾劾、大統領夫人の疑惑追及を繰り出し、いわば“爆風消火”に出ていた。これに対して、尹氏はいきなり非常戒厳という伝家の宝刀を抜いてしまったわけだ。

共に民主党はこれまで「戒厳令、野党指導者の逮捕」を政府は考えているという真偽不明のデマをまき散らしていた。保守メディアは「Kカルチャーが世界を席巻し、OECD(経済協力開発機構)10位圏の民主国家の韓国でそんな時代錯誤的なことが起こるか」と一笑に付していたが、行き詰まっていたのは龍山(大統領執務室、国防部の所在地)で、野党の口撃と挑発にまんまと乗ったのが今回の非常戒厳発令だったと言えよう。

しかし、その悪手の代償はあまりにも大きい。既に大統領追及は厳しさを増している。「発令の要件を満たしておらず、違憲の余地がある」「弾劾も避けられなくなった」「内乱罪にも問われる可能性」と保守メディアでさえ書いている。尹氏は「任期を全うする」とし、与党は弾劾案通過は阻止するとしているものの、「政界では大統領の判断力を疑う声が出ている」ほどで、与党最高会議では離党要求も出た。閣僚も去り、もはや尹氏を助け支える側近は全部いなくなった孤立無援の状況だ。

尹氏は前政権の「反日離米」政策を転換し、対日関係改善を進め、2023年8月には米国で行われた日米韓首脳会談で「キャンプデービッド精神」を確認した。北朝鮮がロシアとの関係を深め、これに後ろ盾の中国を加えて東アジアへの圧力が強まっている状況で日米韓の協力体制は崩せない。

尹政権が退陣し、次期政権が「従北勢力」主導のものになるとすれば、また反日離米へと後退する可能性が心配される。日韓の間では、前政権が結んだ約束を韓国の新政権が反故(ほご)にしてきた過去がある。政権が代わろうとも日韓関係、日米韓協力体制の土台は不変という仕組みが必要だが、韓国左派の考え方が変わらない限り難しいだろう。

日韓の民間交流は重要

だが、尹政権の間に進んだ日韓の民間交流の基盤は重要だ。今年1月から10月までに日本を訪れた韓国人は約720万人に上り、ネットには日本紹介の動画が溢(あふ)れている。たとえ左派政権になっても政府の反日音頭に踊らされずに、日本旅行も日本製品購買も続けるだろう。かつての「NOジャパン」が繰り返されないことを願う。

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